第30話 サソリ?

 

さて、第二回戦目だなァ。


さっきので観客にはオレが氷塊を使うということは知れ渡ったので、次はなるべく他の方法で戦うか。なるべくなァ。


……とはいえ、だ。マサムネさんとの近距離戦で慣れたは慣れたが、怖ェもんは怖ェ。


防御と回避重視……あえて速度特化にして高速で試合を終わらせるか?


…………いや、今決める必要はねェか。相手によって決めればいいし、途中でスタイルを変化させていけばいい。


出来るかは別として。



第二回戦の相手はデカイサソリだ。


そういう名前じゃなくて、マジのサソリ。めっちゃデカイ。4メートルくらいある。


「それアリなの!?」


『─対する南側はゲン・イサカ侯爵の眷属! オオアクマサソリのジャック選手! 特注の首輪を付けて参戦です』


『キチチチ……!』


首輪……奴隷の首輪か。確かに付いてるわ。…いや付いてるけど! 人間よりよっぽど悪魔の眷属っぽいけど! でもそれはダメだろォ!


『尚、ジャック選手の戦闘不能判断は特別席のゲン・イサカ侯爵が行うものとします』


審判じゃねェのか? 隣に審判いるとかか? どっちでもいいか。


氷漬け……にしたら殺しちまいそうだなァ……。どうすっか。一部を凍らせるのは…狙えばいけるが、あの大きさでそれやってもなァ……。


……うっし、殴り飛ばすかァ! 蹴りでも可!


『両者構え!』


拳を握り、胸の前で構える。……サソリのジャック選手も両手…両ハサミ? を構えた。


ヤバい、かなりの知性を感じる……。首輪ってそういう事も出来んの? 魔法ヤベェ……。人間オンリーじゃねェんだなァ。


『開始!』


さァ、どう来る!?


─カンカン!


ハサミを打ち鳴らしながら様子を伺っている。


……カウンタータイプ? なんでスタイル被ってんだよ……。


でも、そんならこっちはスピードで圧倒するか、なァ!


力強く地面を蹴り、相手の背後に回る。


まずは一発!


長い尻尾に右ストレート。魔力で強化された重い一撃を当てる。


手応えがめっちゃ軽い! 『暖簾に腕押し(物理)』みてェなことになってんのか!? 胴体にぶち当てないと衝撃が伝わらねェって事かァ……! よッ、と。


ハサミの反撃をバク転で回避。本人的には余裕だったが、客席からはギリギリに見えたため歓声が上がる。


切る、というよりかは掴み取る動きだったな。横向きにスライドしてたし。てことは恐らく、掴んでから毒針を刺すまでがセットと見た。コレが蟹ならまた違ってたのかもしれねェが。


とりあえずは毒の尻尾をどうにかすりゃァ、オレの勝ちか。掴まれただけならどうとでもなるしなァ。


「んじゃァ、氷塊ッ!」


氷の柱を目の前に作り、自分はその上に跳び乗る。


高さは3メートルかつ、この上で一歩も動けないような座布団程度の断面積。


だが、今はコレで十分。遠距離の攻撃手段があるか確かめたい。


……やっぱもうちょい幅あった方がよかったかも。落ちそうで怖い……。


『キチチ!!』


威嚇しているが、構わずに抜刀。少しだけ鎖を伸ばし、回していく。


さてさて、ここからどう動く? 防御か? それとも打って変わって攻撃か?


「そらッ!」


加速してきたところでググッと伸ばして攻撃。狙うのは目だ。


─ヒュンッ!


サソリが選んだのはハサミでの防御だ。しかし、音速に迫る勢いで振るわれた刀はそれを容易く破壊する。


─バキンッ!!


ハサミが割れたガラスのように砕け散った。


やりすぎたか!? まァいい!


「隙あり、だッ!」


柱の前面を蹴り、サソリに向かって一直線で進む。前宙しながら右足を伸ばし、魔力で強化したかかと落とし。


─ドゴンッ!


目と目の間にクリーンヒットし、サソリは胴体を地面に打ち付ける。その反動でオレは空中に高く浮かび上がる。


はい! ここで鎖を手元に戻すと同時に、背中を反らして華麗なポーズ!


フッ……決まったなァ……!


さて、サソリは…あれェ!? やれてねェなコレ!? えェ、マジで? フルパワーじゃねェとはいえ、岩に罅入れるレベルで蹴ったんだがなァ……。


サソリがむくりと起き上がり、オレの落下地点と思われる場所に移動。残っているハサミを空中に向ける。


……それオレ死なねェ? 熱線の空中移動はまだ実用化出来てねェからなァ……。どうしても氷塊頼りになっちまう。


ま、とりあえずタイミングを合わせてハサミを掴むか。


上昇が終わり、一瞬の浮遊感と無音。


下降の開始と共に、バサバサと衣服がはためく音もする。


落下の速度が上がるに連れて、ハサミとの距離が近くなるのが分かる。やっぱちょっと怖い。やるけど。


全身を魔力で強化。タイミングは………今ッ!


閉じられるハサミを押し返すように掴み─


「─氷塊ッ!」


ハサミを氷で覆い、そのままハンドスプリングの要領で地面へと着地する。


『キチチチ!!』


「冷たい手袋、気に入らねェか? でもオマエにお似合いだぜ?」


姿勢を低くし高速で顔まで近づく。


! ここで来るか毒針! そんならッ!


上半身を倒し右脚を軸に左向きに180度回転、右腕を地面に付ける程に大きく傾け毒針を回避。そのまま回転の勢いを利用し、左脚を伸ばしてかかとで蹴り上げる。


「吹き飛べ」


─ドゴンッ!


変則的な後ろ回し蹴りが相手を跳ね飛ばした。


壁まで吹っ飛んだサソリは、地面を大きく揺らしながら落下。起き上がらない。


『決着!』


オレの勝ちだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る