第18話 4度目のクリスマス・イヴ④

 女の子って、何でできてる?


 僕の経験では、シャンプーの匂いとシルクみたいな柔らかい肌、それと――時折見せるハッとするような大胆さだ。


 黄色い布団が被さったチキンライスを頬張っていると、竜胆が妙なことを宣い始めた。


「私、春一のこと好きだよ」

「……急になんだよ」

「分かるでしょ? こんな格好までしてるんだから」

「分かるもなにも……」


 そんな格好をしろと言った覚えはないんだけどな。


 目のやり場に困るし、そもそもそんな格好が好きな奴だと思われていることに、衝撃を覚える。


「春一は、私のことどう思う?」

「どうって……」

「好き? 嫌い?」

「その二択ならまぁ……」


 好きではある。


 僕は端的に答えた。


 すると、竜胆は胸元で小さくガッツポーズをする。


「よしっ」

「いや、『よしっ』と言われてもな」

「つまり、好きってことなんでしょ? 私のこと!」

「好きだけど、それは幼なじみとしてというか……何というか」

「幼なじみとしてって?」


 やけに突っかかってくるというか、追求してくるというか。


 竜胆は顔をグイッと、僕に近付けた。


 近いし、エプロン下が見えてるんだが……。


 二つのピンク色の突起が見え、思わず顔を背けてしまう。


 まぁ、言い訳せずに言うと、視線を逸らしたのは、竜胆の可愛さも含めてであった。


「ねぇ、春一。私のこと好き?」


 彼女の黒い瞳には、僕が映っている。


 あー……。まぁ……。


「好きではある」

「ふぅん。じゃあ、私と付き合おうよ」

「いや、それは急過ぎだろ」

「なんで?」

「いや、なんでって。説明するまでもないだろ。付き合うなら、こう段階とかあるだろ?」

「段階ってなに?」

「段階って言うのは……」


 説明しようとすると、存外に厄介な問題だと気付く。


 そう言われてみると、段階ってなんなんだろうな。


 付き合うと言うのが、結婚なり、快楽なりを前提としている以上、その前段階で悩むというのはどういった事象なんだろうか。


 例えば、誰かと付き合うとしてのデメリットは何か?


 パッと思いつくのは、その人と付き合う以上、「その人以外とは付き合えない」ことか。


 しかし、僕にとって、竜胆がそのデメリットに値するかと問われれば微妙だ。


 まぁ、可愛いし。ぶっちゃけ好みだ。


 じゃあ、何故思いとどまる必要があるのかと言うと、一つはさんという、より好みの人間と明日デートするからに他ならない。


 竜胆と天津さんの違いは、おっぱいの大きさだ。


 おっぱい星人ですまん。竜胆。


 でも、ちっぱいが悪いかというと、これはこれで捨てがたい。


 貧乳がステータスなら、それも愛すのが男の器量か。


「なに? 押し黙って?」

「いや、まぁ、待ってくれ。考えさせてくれ」

「それは、付き合うのをってこと?」

「ん、まぁ。そうなるな」

「それは何に悩んでのことなの?」

「悩んでというか、なんでこのタイミングなのかなぁとか」


 これまで、付き合うタイミングなら、山ほどあったはずだ。


 何せ、幼稚園から中学校まではいっしょだったし、現在に至るまで、竜胆とは「さくら」でちょくちょく会っていたのだから。


「タイミング……か」

「そうだよ。タイミングだよ」


 天津さんとのデートが明日あるし。


 うん。すべては、タイミングだ。


 僕の言葉に、竜胆は「わかった」と何かを決心した。


「何がだ?」

「ちょっと、こっちきて!」

「あ? おいっ、竜胆!」


 竜胆は僕の手を引っ張ると、とある部屋の前に立たせた。


「これを、私の真剣さが伝わると思う!」


 自信満々に胸を張る竜胆。


 ちっさい胸も、こうしてみるといいもんだ。


 とかなんとかふざけていられるのも、ここまでだった。


 竜胆が自身の部屋の扉を開けると、そこには「狂気」の世界が広がっていた。


「なんだよ、これ……」


 竜胆の部屋は、僕が知っている「少女趣味」なそれとはまったく異なっていた。


「これで、分かったでしょ? 私の気持ち」

「――ッ!」


 部屋に貼られた写真の数々に、絶句してしまう。


 口を覆って、を出すのを堪えると、彼女が耳元で囁いた。


「大好きだよ♡ 春一」


 壁一面には、幼少期から現在に至るまでの、僕の写真が所狭しと飾られていた――

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