第4話 2度目のクリスマス・イヴ③

「シャツはいいけど~。アウターもちゃんとしたもの選ばないと~。あと、ジーンズよりチノパンとかの方がいいよ」


 水杷は甲斐甲斐しく、僕の服選びを手伝ってくれた。


 ジャコモモール2階のアパレルショップ「クライス」に入り、約30分が過ぎた。


 服屋に長居するのは初めてだ。店員の目も気になり、なんだかソワソワしてきた。


「これ試着してみなよ~」

「お、おう」

「どうしたのさ~? ゴリラみたいに顔強張らせて~」

「いや、試着とかすんの初めてで、どうしていいかよくわからん」

「これまでどうやって服買ってたのさ……。春一くん……」


 呆れた様子の水杷は、服を僕に手渡し、試着室を指さした。


 あの隅にあるやつか、試着室って。


「ちょっと着てくるわ」

「ピッタリだったらそれ買いなよ~」


 裏起毛の黒いアウターとチノパンを着て、鏡の前に立つ。


「お~」


 なんだかさっきまで着ていた服が情けなく見えるくらいには、見違えた。


 馬子にも衣装ってやつかね。


 自嘲しつつ試着室を出る。そして、アウターとチノパン、シャツを買った。


 しめて、3万9800円。


 金額を見て、目を丸くしたのは言うまでもない。


「これでバッチリだね~。後は靴だね~」

「あ、そうか靴もあるのか。だったら、金卸さないと財布の中身が……」

「おっけ~。じゃあ、靴屋に先いっとくよ~。いいの見繕っとくね~」


 水杷はどことなく楽しそうだ。


 ま、人の金で服を買うんだ。着せ替え人形みたいな楽しさはあるんだろう。


 ATMで、追加で5万円も卸した。


 ジャコモで5万以上遣う日が来るとは……。自分自身、驚きだ。


 靴屋へ直行すると、今度も水杷のアドバイス通り、ブーツを買った。


 編み込みのあるものが、最近の流行りなんだとか。


「定価2万円が30パーセントオフだなんて~。良い買い物したね~」

「1万4000円でも、僕にとっちゃ十分高いけどな」

「わはは~。オシャレは努力だよ~。努力とはこの場合お金だよ~」


 さいですか。


 まぁ、水杷の言うことにも一理ある。


 僕は黙って首肯した。


「じゃあ~、春一くん。今度は私の買い物に付き合ってくれるかな~?」

「あぁ、もちろんいいぞ。何を買うんだ?」

「ついてくればわかるよ~」

「……なんだ?」


 水杷に手を引かれ、ジャコモ内を移動する。


 どこへ連れていかれるんだろうか……。


 てか、知らん間に手繋いでるんだよな。高校の時も、水杷はこんな感じだったなぁ。


「ここだよ~」

「……まじで言ってんのか?」


 連れられたのは、女性用の下着売り場だった。


 カラフルかつ、パステルなブラジャーやパンティが並ぶ中、彼女は水先案内人のように先導した。


「どれがいいかな~? 春一く~ん」

「どれでもいいだろ……」

「え~。でも、色は重要だよ~? 赤? 白? それとも黒とか~?」


 水杷は揶揄うように、ブラジャーを僕に向けた。


 小さくて愛らしい彼女が意外に派手な下着を好むことを知って、不覚にも少ししてしまった――


「春一くん。私、何カップあると思う~?」

「知らねぇよ! どうせ、AとかBだろ?」


 そんな胸あるように見えねぇし。


 慌てて答えると、彼女がこっそりと僕に耳打ちした。


「私、Dはあるよ♡」


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん?


「な、なんで急にそ、そんなことを!?」


 同級生の発育にドキマギしていると、水杷はまたもやカラカラと笑った。


「鈍い春一くんに仕返ししたかったんだよ! ただ、それだけ~」

「どういう意味だよ?」

「さあね~。じゃ、私、黒いの買ってくるからね~」

「そんなことわざわざ言わんでいい!」

「あはは~」


 僕の戸惑いをみて、水杷はまた一つ笑うのだった。

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