ループする世界

ループ⇄椎堂茅夏の場合

第2話 2度目のクリスマス・イヴ

 幕を閉じる――はずだったんですけどねぇ……。


 目覚めると、僕はベッドの上にいた。


 いやはや、死んだはずなんだがなぁ。


 枕元に置かれたクリスマスプレゼントを確認する子どもよろしく、いや待て、「転生した可能性はゼロじゃないよな?」と鼓動を早めたが、やっぱり違うようだった。


 毛布の微妙なふかふかさといい、天井の染み具合といい、間違いない。


「僕の家だな……。ここは……」


 どうやら、悪い夢だったらしい。


 それもそうだよな。


 クリスマスの日に、見知らぬ女から刺されるなんて、普通じゃ有り得ない。


 というか、それが有り得るような人生を歩んできていない。


 19年間、彼女なし男。


 それが僕、如月春一きさらぎはるいちという人間なのだから。


「あー、寝汗かいてら……。気持ち悪ぃ」


 ベッドから起き上がり、洗面所へと向かう。


 シャワーでも浴びるか……?


 てか、そもそも今何時だっけ?


 先に時刻を確認すると、時計の短針はきっかり「8」をさしていた。


「8時ちょうど? 奇跡的だな……」


 8時ぴったりになど、生まれてこのかた一度も起きたことがない。


 大体、8時前に起きるのが常で、休日は9時過ぎまで寝るのが、生活のサイクルだ。


 とはいえ、8ってのは縁起がいい。


 8時きっかりというのが妙に嬉しくなって、テレビをつけると、「モーニングビュー」というニュース番組が始まったところだった。


『今日はクリスマス・イブですね、上屋敷さん! 何かこの後、ご予定とかはあるんですか?』


 クリスマス・イブ……?


 一瞬、聞き間違いかと思ったのだが、どうもそうではないらしい。


『クリスマス・イブですね、鳥家さん! し、かし! 私のクリスマスイブの予定は、今のところありませんっ! 絶賛募集中です!』

『上屋敷さんとクリスマス・イブを過ごされたい方は、番組まで!』


 つまらんアナウンサーとコメンテーターのやりとりを見つつ、得心した。


「あ、そうか。今日がか」


 クリスマスの夢なんてみたもんだから、感覚がバグったようだ。


 24日すら迎えていなかったのに、先走り過ぎだろ……僕。


「浮かれんなよ……春一」


 浮ついた根性を落ち着かせるため、そう鏡の自分に言い聞かせる。


 ただまぁ、自分で言うのもなんだが、浮つくのも無理もない。


 何せ、明日25日のクリスマスは、人生で初めてなのだから。


「クリスマスこそ、勝負の日なんだからなっ!」


 相手はバイト先の先輩、天津あまつさん(20)。


 ゆるふわ系癒やし女子で、西瓜みたいなおっぱいを持ってるS級女子!


 天津さんに彼氏がいないことすら驚きだというのに、四方やクリスマスデートを了承してくれるとは!!!


 まさしく、人生の運をすべて使い切ったんじゃないかってほどの幸運だ。


「ぜってー、告白を成功――あち! あち、あちっ!」


 熱々のシャワーを浴びながら、僕のクリスマス・イブは始まった――

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