エンドレス⇄スノウ†地雷系ヤンデレ少女から逃げ切れ†

志熊准(烏丸チカ)

第1話 プロローグ

 しんしんと雪が降る夜だった。


 クリスマス・イヴに雪が降るなんて、地球温暖化が叫ばれて久しい昨今、珍しいなと思索に耽ってみる。


 考え事をしながら公園沿いの道を歩くだなんて、ちょっぴり大人な気分だった。


 といっても、大学生は十分大人か。


 成人の定義が変わってからというもの、19歳の意義は大きく変わったような気がする。


 酒や煙草の吸えない「大人」なんて、ハードボイルド作品好きの僕には、やっぱり納得がいかないんだよな。


 大人といえば、バーボンかウイスキー片手に、バーで女を口説く。


 そう相場は決まってる。


 だからこそ、僕はそんな大人になりたかった。二十歳はたちになったら、ウイスキーと煙草に挑戦したい。


 薬品みたいな匂いの酒を飲みながら、ナッツをつまみに、哀愁漂わせながら紙タバコを蒸かす。


 考えただけで、痺れるよな。


 そんな風に夢想していた。


 しかし、それはどうやら叶わないらしい――


「ちくしょう。いてぇ、いてぇ……よっ。さびいよ……。ちくしょうっ!」


 臓物に刃が刺さったんだと悟る。もう、助からない。それがなんとなく分かり、涙も枯れはてた。


 腹の辺りを最後の足掻きで眺め見ると、夕暮れから浅く降り積もった雪が、真っ赤に染まり、辺り一面イチゴシロップのかき氷みたいになっていた。


 何の冗談なんだよ。ちくしょうっ。


 今際の際、街灯からの白銀の光に照らされつつ、僕は――僕を刺した女を睨んだ。


 ピンク色のフリルの付いたブラウス、黒のプリーツスカート、レースがひらひらした厚底パンプス――


 眼前にいるの少女こそ、僕を刺した女だった。


 女は先ほどから、理性がぶっ飛んだような表情で「許さない」とだけ、延々と連呼している。


「許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない――」


 大分深く刺されたんだろう。女の持つナイフには、たっぷりと僕の血が付着していた。


 許さないも何も、許せないのは僕の方だっつーの……。


 もう声も上げらんねーけどな。だけどもな、お前なんかに怨みを買った覚えはないぞ。


 砂時計の砂がサラサラと落ちるように、時間が刻々と過ぎていく。


 すると、じんわり温かかった身体が、急激に冷たくなっていくのが分かった。


 血の気が引くとは、このことなんだろうな。しょうもない……。


 短い人生だった。


 これがライトノベルだったら、「転生」とかすんのかね?


 チートスキルで、やりたい放題してみてー。魔法の世界なんかに行っても、なんの知識も持ってないけどな。


 その時は、神様にでも直談判するしかねーよな。


「クソみてぇな人生を呪うくらいしかできねぇよ。ばかやろうっ」


 そう強がりながら、僕の人生は幕を閉じた――

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