2-2 不自由な自然 2
明途を見守る少女はしばらく彼の近くにいた。彼女は明途の近くにしゃがみこんで、彼のことを見る。彼女にとっては特に変わったところもない人間だ。その顔を見ても、面白みはない。ただ、この場所で眠ったままだと、各自にあれに殺されるだろう。この森は眠ることができることができるほど安全ではないのだ。
「それにしても、幹部は何を考えてこの場所にこの人を送り込んできたのかしらぁ。それとも、これは幹部じゃなくて~、博士のせい? どちらにしても、こんな場所に繋ぐなんて悪趣味ですねー」
彼女はそう呟きながら、警戒していた。そのゆったりとした話し方とは裏腹に、その視線は鋭い。少しの変化も見逃さないようにしているように見えた。
しばらく、彼女はそうしていたのだが、彼がもぞもぞと動き始めた。そろそろ起きるのかもしれないと思い、彼女は明途から離れて森の木と茂みの後ろに隠れた。すると、彼は自分が眠っていたことを自覚したのか、上半身をバッと起こした。周りを見ながら、自分の体も確認する。どこにも何かに襲われたような傷跡はない。こんな場所で眠ってしまった自分に不用心すぎるという恐怖を感じていたが、幸いにも何事もなくてよかった。と思ったのだが、立ち上がろうと手を付いたところに視線を落とすと、そこには何かの足後に見えるものが地面についていた。あの化け物ではないように見える。しかし、そもそもこの場所に元々あったものかもしれない。だとすれば、この森の中というか、この大自然の空間に他の人間がいるということになるのかもしれない。ただ、あの化け物を見た後だと、その足跡を残すような足を持つ化け物がいないとも限らない。そう考えると、背筋に冷たいものが走る。彼は身震いしながら、恐怖を忘れるようにして、また森の中に入っていく。
彼を近くで見守っていた彼女は、彼が元気になり、森の中に入るところを見届けるだけで、彼についていくことはしなかった。彼を守り続けたいというわけでもなく、ただただこの迷宮城に入ってきた人間に興味があっただけなのだ。さらに、この迷宮城にいれば、また会うこともあるだろう。彼女は彼の背中が見えなくなると、森の中を迷いなく進んでいった。
後ろで草木が揺れて、擦れる音が聞こえるだけで、肩がピクリと動いてしまう。心なしか、先ほどよりも暗いような気がしてきていた。それがすぐに勘違いではないことに気が付いた。太陽の光は木々の枝葉に遮られて暗くなっていく。森が深くなっているのが実感できるような形で暗くなっていく。やがて、ぎりぎり目が見える程度の明るさになると、同時に森の不気味さが強く感じてしまう。先ほどよりも、木々の音に恐怖を感じてしまう。
「くそ、なんだよ」
声を出して、何とか恐怖心と不安に意識を取られすぎないようにしていた。しかし、彼はその場で足を止めた。視界には不自然なほど赤い何かが光っていた。その光は二つだけで、横並びになっている。その並び方は暗闇も相まって何かの目にしか見えないのだが、目だとすればかなり大きいだろう。光の大きさは掌より少し大きい程度のものだ。それがゆっくりと横に動いたように見えた。彼の体が固まる。驚きでからだが縛られたように硬直する。見間違いかと思ったが、二度目にそれが動いているのを見て、それが確実に動いていることがわかった。
「嘘だろ」
彼の視界の中、見えにくい視界の中で、微かにそれの輪郭が浮かび上がる。この森に入るときに戦った化け物を大きくして、より気色悪くしたような体を持った大きな化け物が見えた。最初に戦った化け物は大きさ的には子供位の物だったが、今、目の前にいるのは、大人よりも明らかに大きい化け物だ。頭の位置が彼の背丈の高さ位にあるということは、体がそれより大きいというわけだ。彼はその見た目に、また恐怖心を覚える。この場所が薄暗くなければ、気絶している自信があるほどだ。しかし、この視界の悪さに感謝しながら、彼は戦うことにした。
彼が戦う決意をしたところで、相手が飛び上がる。飛ぶ時点で、地面が揺れるような音が聞こえた。木々をバキバキと折りながら、確実にジャンプで距離が詰まっている。手に付けているバックラーでは、大きな化け物のタックルを弾き飛ばすことはできないだろう。相手の体重の方が重いだろうし、さらにジャンプしたせいで、その勢いも乗っている。彼は何とかして逃げようとしたのだが、相手の体が大きいせいで、大きく距離を開けることが難しい。相手の着地の瞬間に彼は前に思い切りとんだ。その瞬間に、何かが爆発したかのような音と共に、彼に衝撃波が襲い掛かる。
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