シンカする魔法の実 ~魔法農園でタネドーピング~
黒おーじ@育成スキル・書籍コミック発売中
第1話 異世界の農地
「そんな……」
次元転移のゲートをくぐって異世界に来てみると、俺は
そこは森の中にぽっかりあいた平地。
広さは学校の体育館くらいで、石や岩がゴロゴロ転がっている。
「これじゃ農地ってよりも
遠く空にははばたくドラゴンの影が見え、カラスのような鳴き声を上げていた。
俺が望んだのはスローライフであってサバイバルじゃねーんだけど?
と、そんなふうに途方に暮れていた時だ。
「ごめんあそばせ」
ふいに後ろから声をかけられる。
ちょっとビックリして振り返ると、そこには女が一人立っていた。
「え、俺?」
「はい。我が
女の瞳が刺すように見る。
「あ、ええと、俺はあやしい者ではなくて……この土地の
俺はそう言って遺言書を見せた。
「勇者様の……?」
女はお上品なしぐさで口元を押さえる。
「拝見いたしますわ」
そう言うので遺言書を渡す。
……なんかヘンな女だ。
縦ロールに巻かれた
一方、着ているモノは和装で、着物の上にエプロンとして純白の
「失礼致しました。確かにご子孫のようですわね」
「……ああ。ところであんたは?」
「あら、申し遅れましたわ。わたくし、勇者様の
「
俺は首をかしげる。
「それにしては貴族めいた名前だな」
「ええ、没落貴族ですのよ。トホホホホ」
手の甲を逆手に当てて妙な高笑いをする
やっぱヘンな女だ、と俺は思った。
◇
この農地……というか
それは昔の農家の日本家屋っぽい木造の平屋。
おそらくひい
「お疲れでございましょう? どうぞこちらへ」
フルートとかいう女は俺をその平屋へと
ガタガタ、ガタン……
横開きの木戸。
中へ入るとあがりかまちの上には板張りの床が広がり、
「お茶でございますわ」
しばらく家の中を見渡していると、茶を淹れて運んできてくれた。
白と銀のおしゃれなティーセット。
中身は緑茶だったけど……
「まあ、でもウマイな」
そこでふと視線を感じ、フルートが身を乗り出すように俺の顔をまじまじと見つめているのに気づく。
「なに? 俺の顔になんか付いてる?」
「い、いいえ」
女が顔をそむけると、金糸のような巻髪が白い
「ただ……やはり勇者様に似ていらっしゃると思っておりましたの」
「えー」
俺、そんなに老けて見えるかなあ?
そう気になって自分の顔をペタペタ触っていると、女は「コホン」と咳払いをし、おもむろに一つの木箱をちゃぶ台の上へ差し出した。
「さっそくですが、こちらご査収くださいまし」
「これは?」
「勇者様の一番の遺産……魔法の実と呼ばれる伝説のフルーツの“タネ”ですわ。この実を育て、
フルートが言うには、ひい
――それは第二次世界大戦の後。
なんでも究極魔法を
異世界は過酷な世界だが、ひい
この大陸では『勇者』と言えばうちのひい
しかし、それでも肝心の魔法を身に付けることはできない。
あたり前である。
日本人にはそもそも魔力がないからだ。
だから魔力そのものを摂取できる【魔法の実】を探し求めたのである。
「そしてついにそのタネを手に入れ、王より
「……その前に寿命が尽きちまったってわけか」
さぞ無念だったろうな。
少しこの木箱が重厚なものに見えてきた。
「開けてもいいか?」
「もちろんですわ」
そう言うので開けてみると、確かに一つの
色はベージュで、大きさは小指の爪くらい。
ただし、わずかに紫いろの光を放っている。
「ヒロト様」
「ん?」
フルートは祈るように胸の前で手を組み言った。
「……どうか勇者様に代わってこのタネを育ててやってくださいまし」
「うーん」
たしかに魔術を使えるようになるフルーツってのはスゴいし、正直興味はある。
だけど、果たして俺に育てることができるのか、また、育てることができたとして俺が異世界に求めるスローライフに役立つものなのか……
まったく未知数だった。
「けどまあ、どーせ帰っても社会人に戻る気はしねーしな。やるだけやってみるか」
「ヒロト様!」
「あんたも手伝ってくれるか?」
そう尋ねると、フルートは始めてニコリと笑顔になって答えた。
「もちろんですわ!」
ヘンな女だけど……
こうして見るとけっこう美人かもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます