ショートショートの神様

魚市場

ショートショートの神様

ある日、エヌ氏の目の前に悪魔が現れた。

「私は悪魔だ。君の願いを一つ叶えてやろう。」

エヌ氏は尋ねた。

「どうして私のもとに現れたのですか?」

悪魔が答える。

「私はひどく落ち込んだ者の前に現れる。願い事を聞く前に、君のことを少し聞かせてもらおう。」

エヌ氏は自身のことについ語り始めた。

「私は作家を目指しています。文章を書くのが好きです。とは言っても長文を書くのがどうにも苦手で、ショートショートの作家を目指しています。」

「ほう。『ショートショート』とは何だ?」

「短編より短い小説の事です。短い話では設定や結末の奇抜さが重要なんです。しかし、自信作が書けた!と思って出版社に持っていってもボツにされてしまうんです。」

「なぜだ?」

「君は知らないだろうが、『ショートショートの神様』と呼ばれている人がいたんだ。『星野新二』と言って、日本におけるショートショートというジャンルを確率した人なんだ。もう亡くなっているけど、今もなお本は売れ続けている。彼は1000編以上の作品を遺した。僕がいい設定や結末を思いついた! と思っても、調べるとそれはもう星野先生がやっていたネタなんです。もうショートショートのネタは彼にやり尽くされてるんですよ。」

「なるほど、して貴様の願いはなんだ?」

「過去に戻って『星野新二』の存在を消してほしい。もちろん僕の記憶には影響はしないようにね。そうすれば僕がショートショートの神様になれる。」

「分かった。願いを叶えよう。」

そう言うと悪魔はすっと消えた。


次の日エヌ氏が目覚めると、エヌ氏はさっそく星野新二の「ロッドちゃん」という話をそっくり真似した作品を出版社に持ち込む。作品を読んだ担当編集者は言った。

「何だね、これは? 面白いけど、ちょっと短すぎるね。これじゃ原稿料は払えないよ。」

「ショートショートですよ!そういうジャンルの小説です。」

「そんなジャンルはないよ。前例もないし。多分流行らないだろう。悪いことは言わないから長編を書きなさい。」

新しい世界では、ショートショートという形式は市民権を得ていないようだった。

エヌ氏は再び、ひどく落ち込んだ気分になってしまった。

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ショートショートの神様 魚市場 @uo1chiba

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