第41話 【陽奈】最後の夜
土曜の夜。
あのあと、コータからもハルトからも、なんの連絡もない。
喫煙所にも定食屋にもいかなかったから、会社でも、特に会うこともなかった。
このまま自然消滅してしまえば、これ以上傷つかなくて済む。
でも、もし会社で会った時、私はどんな顔をすればいいんだろう。
やっぱり、ちゃんと謝ったほうがいい。
私はスマホを手にとった。
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晴翔、嫌な目にあわせちゃって、本当にごめんなさい。
晴翔と幸太が仲良かったのは、この前のレストランの晴翔の話で気づいた。
でも、私、晴翔のことも好きになってて、ちゃんと言い出せなくて。
幸太にも、これから謝ります。
ふたりの関係を壊しちゃったこと、反省しています。本当にごめんなさい。
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送り終えると、ボロボロと涙が止まらなくなり、私はベッドに横になった。
いつもは速攻で返信がくるのに、しばらく待っても、ハルトから返信はこなかった。
私は意を決してコータに電話した。
プルルルル‥‥
しばらく鳴ってから、テンションの低い声でコータが出た。
「‥‥はい」
「‥‥‥幸太、今から会える?ちゃんと謝りたくて‥‥」
「出かける気になんねーから、ウチにきたら?きたねーけど。住所送るから」
そう言うとコータは私にピン留めされたマップを送ってきた。
駅を降り、マップを頼りに歩いていくと、コータの役職にはおおよそ似つかわしくないオンボロのアパートが見えてきた。
指1本サイズの小さいベルをならすと、寝起きみたいな姿でコータが出てきた。
「ごめんな、ぐちゃぐちゃで。」
「あ、うん。。。」
いつ買ったのかわからない、割引の値札がついた惣菜のパッケージと、空になった焼酎やビールの空き缶がそこらじゅうに点在している。
そんなことないよ、とは言えないレベルに、生活感が溢れ過ぎているコータの部屋の様子に、私は若干引いてしまった。
でも、私のせいでこうなっているところもあるんだから、何もいえない。
私は弁当ガラを片付け、持ってきたジュースとお菓子をテーブルに出した。
ベッドに座ったまま黙って窓の外を眺めているコータの横に、私は座った。
「幸太、私、本当に最低なことした。ごめんなさい。」
「‥‥晴翔が先だったんだよな?」
「いや、その、、、でも晴翔とは付き合ってないし、、」
「じゃあ、付き合ってなくても、平気で寝れるってことだよな?」
「それは、、、でも、最後までしてないし、、、」
コータは苛立ちを隠しきれない様子で、頭をぐしゃぐしゃにした。
「晴翔と同じこというなよ!!」
「ご、、ごめん。」
私は少しあとずさりした。
「ひなは、どうしたいの?俺と晴翔、どっちが好きなの?」
「コータとやり直したい。」
「晴翔はどうすんの?」
「晴翔には、もう会わないってきめた。」
「あ、そう‥‥。」
沈黙が流れる。
「幸太、傷つけて本当ごめん。でも私、幸太のことが好き。勝手なこといってるのはわかってるけど、もう絶対こんなことしないから、もう1度やりなおしたい。」
目から大粒の涙がこぼれ出す。
「ひな、本当に俺のこと好き?」
「うん、大好き。。。。」
私はコータの太腿の上に座り、コータの背中をぎゅっと強く抱きしめた。
ほどなくして、コータも私の背中に手を回し、涙を指で拭ってくれた。
「もうどこにもいかないって、約束できる??」
「うん、する。。」
そう言って私はコータに唇を重ね合わせた。
コータと会ったら、キレられるんじゃないかって思ってた。
こんな感じになるなんて、予想してなかった。
なんて心が広いんだろう。
優しくて
心配性で
寂しがりで
そんなコータが愛おしくてたまらなくなり、私はキスをしたままコータを押し倒した。
「コータ、大好き。。。」
私はキスをやめ、服を脱ぐとコータのズボンを下げた。
その気になったコータを、ゆっくりと、優しく舌でなぞる。
「待って、ひな。。。。」
「え‥?」
顔を上げると、両目を手で覆って、コータが泣いていた。
「俺、やっぱだめかも。。。。」
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