「地下牢 」— episode 6 —

 地下へと続く階段。

 暗闇の中、足音だけが響く。

 鼻につくカビの匂い。下までおりると、どこからか隙間風が入ってくる。通気孔があるのだろう。

 階段をおりて突き当たりを左へ——通路が真っ直ぐに伸びていた。

 その突き当たりの壁の左側。うっすらと明かりが漏れている。若い男が二人座っていた。こちらに気附き、すぐに扉が開かれる。ウダが男たちと話しはじめる。明かりはテーブルにあるランプだけ。錆び付いた鉄格子が左右に四箇所ずつ。奥の壁まで続いている。男二人はランプを手にして出ていった。

「あの連中は?」

「村の自警団の者だ」

 ウダは銃をテーブルの上に置いた。

「銃を置いておけ。左側の一番奥だ」

 そう言って奥へと歩きだす。おれは銃を置くフリをして、あとへつづいた。鉄格子の前に立つ。目を凝らした。男が壁にもたれ、うずくまっている。俯いているので顔がよく見えない。手と足にかせ。そこから壁に鎖が伸びている。

「おい」

 ウダがランプの明かりを向ける。するとゆっくりと顔を上げた。はっきりとは見えないが、精悍な身体つきをしている。まだ二十歳を少し越えたばかりのようにみえた。チャンが低い笑い声をあげる。

「おまえは…チャンではないな」

 ウダの問いには答えず、チャンではない何かが口を開いた。

「待チクタビレタゾ、我ガ主ヨ」

 背筋に悪寒が走る——。

「どういうことだ?」

 ウダの問いに、おれを指差し答えた。

「ソノ男ガ、我ヲ生ミ出シタノダ」

 ウダは驚く様子もなく、おれに視線を移した。

 打ち消したはずの仮説が、ふたたび浮かび上がる。

「でたらめだ…」

 声がかすれていた。

 チャンであってチャンでないもの。そいつがまた、低く笑うと言った。

「デハ聞クガ。ナゼ貴様ハ今、我ノ目ノ前ニイルトオモウ?オシエテヤロウ。我ガ貴様ヲコノ領域ニ引キ寄セタカラダ。ナンノタメニ?」

 —— こいつの口を封じろ……。

「そんなことしるか」

「ナガタノリコの居場所を聞きだすためだ」

 いきなりウダが割って入った。低い笑い声が消えた。そしてゆっくりと答えた。

「ソノトオリダ」

 —— 今すぐこいつの頭をぶち抜け!

「我ガ主ガモタモタシテルンデ、我ガ代ワリニ殺シニキテヤッタンダ。ソレデ……アノ女ハ今ドコニイル?」

 ウダは黙ってこっちを見た。おれは言った。

「勘違いもいいとこだ。あの女はこの世界にはいない。おれが元いた世界の人間だ」

 ウダは黙って成り行きをみている。

「無関係の人間を殺しやがって……。あの女にどんな恨みがあるのかしらんが、これ以上関係のない人間を巻き込むな。おれが元いた世界にでも行ってみるんだな」

「嘘ダ」

「嘘じゃない」

「我ハアノ女ノ気ヲ追ッテココヘヤッテ来タンダ。ココヘ来タト同時ニ気ガ途絶エタ。意図的ニダ。間違イナクイル」

「人違いだ」

 そう言うと、溜め息が聞こえた。

「貴様ハ嘘バッカリダ。モウイイ。貴様ニ用ハナイ。腰抜ケメ」

 頭に血がのぼった。銃を向けていた。化け物が笑っている。

「銃をおろせ。勝手なまねはするなと言ったはずだ」

「我ニ説教シタ当ノ本人ガ、関係ノナイコノ男ヲ殺スノカ?トンダオ笑イグサダナ」

 化け物が低く笑い続けている。

「挑発にのるな。銃をおろせと言ってるんだ」

 ウダの落ち着いた声。

 ゆっくりと銃をおろした。手が震えている。

「相変ワラズくちダケダナ。マアイイ。コノ男ハ返ス」

「おい!待て——」

 チャンの首が垂れ下がり、それきり動かなくなった。

 銃を持った手が、まだ震えていた。

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