コウスケ 7
「そこになにが埋まっているの?」
背後から声をかけられた。
振り返ると同時に白い光が目の奥に突き刺さった。
「もしかしてシンジくんがそこにいるんじゃないの?」
女の声だった。
「誰だ、あ、マナミか?」
オレは腕で目をかばいながら、声のした方に向かって怒鳴り返した。
光の向こうで複数の人間が身構えるような気配があった。
そのまばゆい光がぐるりと回転し、闇の真ん中に小さな顔が浮かび上がった。
知らない女だ。いや、まて、どこかで見たことがあるかもしれないぞ。
さて、誰だったか。
落ち葉を踏む音がして女の右側に二人の男がずいと出てきた。
「なんだ、あんたたちは」
女がなにか言おうとして口を開いた。そのとき――
しんと静まり返った雑木林に、神々しく、清く、切なさをかき立てるような女性の歌声が朗々と流れはじめた。
正面に立つ女は、怯えた目をオレの背後に向けた。
オレは耳を澄ませた。
あの歌だ。
アメイジング・グレイスだ。
女が短い悲鳴を上げ、懐中電灯を取り落とした。
闇と光が入り混じり、世界が反転し、軽いめまいに襲われた。
歌声は続いている。
オレはゆっくりと振り向いた。
それは暗闇の中で白くぼんやりと光るキノコのように見えた。
細長い柄が枯葉の間からにょきりと突き出し、いびつな形をした傘がその先端で光っている。明るく暗くをくり返し、アメイジング・グレイスを歌いながら。
なんだ、こんなところにあったのか。
オレは一歩、二歩と湿った落ち葉を踏みしめながらその光に歩み寄った。
この携帯電話は処分しなくちゃいけないんだ。中に保存されているあの写真は誰にも見られちゃいけないんだ。もし見られたら、オレはおしまいなんだ。
オレは歌い続ける携帯電話に手を伸ばしかけて、ようやく気がついた。
それはシンジの腕だった。土の中から突き出した細くてみすぼらしい腕だった。腕の先端にはカギ型に曲がった五本の指があり、携帯電話を握り締めていた。
そうか、腕だけはなんとか這い出して、そこで力尽きたんだな。
首は完全に折れていたのに、すごいなシンジ。
でも残念だったな。
この携帯電話、オレが処分させてもらうよ。
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