第41話:侵攻
天文19年2月13日:尾張清州城:織田三郎信長17歳視点
正月の宴が終わって直ぐに黒鬼がやってくれた!
東遠江の湊を数多く襲って、軍船や小舟を奪った。
黒鬼の水軍が日々増強されている。
黒鬼は水軍と連携協力できる場所、海沿いに兵を進めた。
余の家臣となった引馬城主の飯尾連龍配下、頭陀寺城主の松下之綱に湊を築かせて、前田水軍の拠点とした。
見付端城を取り返して城主にしてやった、堀越貞忠にも湊を築かせた。
堀越貞忠にしても、黒鬼の援軍がなければ城を保てない。
命じられるままに湊を築き前田水軍を駐屯させた。
次に太田川を越えた内陸部にある、馬伏塚城を攻め落とした。
馬伏塚城は小笠原清広が城主だったが、黒鬼の敵ではなかった。
小笠原清広は黒鬼に生け捕りにされた。
とはいえ、黒鬼が欲しいのは内陸部の城ではない、湊だ。
黒鬼は馬伏塚城を城代に任せて湊を築かせた。
湊に水軍を常駐させて、更に弁財天川の東に軍勢を進めた。
高天神城主の小笠原春義は、馬伏塚城主小笠原清広の実兄だ。
黒鬼のやり方を知っている小笠原春義は、余に降伏臣従した。
小笠原春義を寄り子にした黒鬼は、湊を築かせた。
小笠原家の家臣、曾根孫太夫長一が城主の朝比奈城、高橋氏の高橋ノ城、殿ノ山、比木城、釜原城が余に降伏臣従した。
そのまま黒鬼の寄り子となって今川家に戦いを挑んだ
新野城こと八幡平城主の新野親種だけは、今川家に忠誠を尽くして舟ヶ谷城と共に籠城したが、黒鬼に大手門を吹き飛ばされ、ろくな抵抗もできずに生け捕られた。
ここまでの侵攻で、黒鬼は遠江の御前崎一帯を手に入れた。
内陸部は余の家臣と成った者の領地として残し、湊を築かせて使用権、水軍の駐屯権だけを要求してきた。
余としても、黒鬼に頼らなければ、今川と斉藤の両家を同時に敵に回して戦わなければならなくなる。
尾張に匹敵する大国、美濃に巣くうマムシを相手にするだけで精一杯だ。
東海一の弓取りと呼ばれる今川義元まで相手にしていられない。
軍略と謀略を得意とする義元は、剛勇の黒鬼が苦手なようなので、少々多くの利を与えても黒鬼に任せたい。
湊の使用権と水軍の駐屯権程度で済むのなら安い物だと思ったのだが、黒鬼の軍師は甘くなかった。
鰯漁と鯨狩りができるように、浜の使用権も要求してきやがった。
仕方がないので、海岸線の領有を認める代わりに、鰯漁と鯨狩りの正確な利を測り、軍役を果たすよう命じた。
黒鬼は御前崎一帯を越え、萩間川の先にある滝堺城を落として占領した。
海沿いの高台に築かれた城は、黒鬼に取って絶好の拠点だった。
西の菊間川沿いには相良湊があり、東の勝間田川沿いには川崎湊がある。
その間は長い砂浜になっていて、人工の入り江や塩田を造るのに適していた。
余としても信用できない国人地侍には与えられない拠点だった。
黒鬼がこれ以上力をつけるのに危機感が無い訳ではない。
だが、黒鬼が負けるのも困るのだ。
黒鬼と今川義元をどちらかを選ぶしかない以上、黒鬼を信じるしかない。
余から滝堺城周辺の領有を認められた黒鬼は、湊に水軍を駐屯させ、城に城代を置いて死守する体制を築いた。
有り余る銭で兵糧を買い足軽に腹一杯喰わせ、魚の焼干しまで飯の肴に付ける黒鬼の元には、他の国人地侍が召し抱えていた足軽まで集まった。
それどころか、喰うに困る連中が先を争って集まった。
黒鬼は有り余る銭を使って足軽を召し抱え人夫を雇い、湊や塩田を築かせ、人工の入り江も造らせて、水軍を休ませる事なく使った。
使った銭は、使った数十倍の銭になって返ってくる。
足軽や人夫に食わせる魚は、鰯油や干鰯にしなければ腐るくらい獲れる。
腹が立つくらい良い流れになっている。
黒鬼は勝間田川を越え、今川義元の城代が守る龍眼山城を落とした。
龍眼山城は海に近く、砂浜を守るのに必要な城だと考えたのだろう。
領有を願う使者が来たので認めた。
黒鬼は坂口谷川を越え、湯田川の河口から少し遡った小川城を攻め取った。
湯田川は暴れ川で知られた大井川の少し西を流れる川だ。
大井川を超えれば遠江ではなく駿河になる。
海岸線だけとはいえ、黒鬼は今川義元の本貫地である駿河に迫ったのだ。
切り取った遠江を今川義元から守るための、境目の城を手に入れたのだ!
いや、駿河を切り取る拠点を手に入れたと言ってもいい!
思っていた通り、黒鬼は駿河にまで攻め込んだ。
今川義元のために戦い、人質のままになっている、長谷川元長の小川城を囲み、まだ幼い嫡男の長谷川正長に、父親の解放を条件に城地明け渡しを交渉した。
長谷川家は、文明の内訌で今川館を追われた龍王丸、今川氏親と母親を匿った忠臣なのだが、今川義元は身代金を払わなかった。
小川城は、志太平野から駿河湾に注ぐ黒石川の河口にある小川湊を守る城だ。
小川湊の物流と交易を掌握する長谷川氏は、長谷川次郎左右衛門正宣の代には、法永長者と呼ばれるほどの富裕を誇っていた。
黒鬼は軍師に教えられたのだろう、長谷川元長の身代金は、そんな富裕な長谷川家でも支払えない莫大な額にしていた。
今川義元が他の家臣の身代金を先に支払ったのも、しかたがないのかもしれない。
だがそれが、当主を人質に取られたまま、幼い嫡男を守って黒鬼と戦わなけばならない苦境へと、長谷川家を追い込んだ。
ここで黒鬼は、小川湊の利権を半分譲る事を条件に、長谷川元長の解放と織田弾正忠家への臣従を認めると交渉した。
忠誠に報いない今川義元に腹を立てていた家臣達に強く言われて、長谷川正長は余の家臣と成り黒鬼の寄り子となった。
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