第34話 即席の百鬼夜行

「フン、もっとしっかり走らないか。それとも丸かじりにでもされたいか?」


 ホッケは軽く地面を蹴りながら、追いかけて来る。


 おれは走った。そしてその勢いのまま、例の地蔵を突き飛ばして、倒す。


 瞬間、地蔵から黒い影が抜けだした。


 ホッケがそれに気づいたかはわからない。後ろなんて振り返る暇もない。


 とにかく走る。走って、今まで『意図的に避け続けて来た』場所を駆け抜けた。


 その際、道端の地蔵や道祖神を引き倒し、お堂や古い電柱のお札をはぎ、暗がりに潜む何かと目を合わせ続ける。


 そのためのルート、そしてこの作戦の全て。


 やがて、この町一匹だっていないはずの馬の足音がついてきた。耳の後ろから念仏が聞こえてきた。こっちを見ろ、とかすれ声がする。カランコロンカランコロン下駄の音が響く。先輩、という声もする。ただし伸びきったカセットテープみたいな不快な声だ。足に太いロープが巻きついたような感触がある。妙にひんやりとして、鱗の感触もある。肩に違和感がある。米俵を担がされたような。右手の小指を、赤子がしゃぶっている。髪の毛を後ろから何かが引っ張っている。道端で油すましが手を振っている。


「正気か貴様……」


 ホッケが息を飲む音が聞こえた気がした。


「即席の百鬼夜行だ。食えるもんなら食ってみやがれ!」

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