第17話 流石に神様は見えた事はない

 無茶苦茶な話だ。自分が食べられる相手を選ばせるなんて……でも、もしそれが本当なら、抵抗してどうなるような事でもないのはわかる。


「その時、自分は狼男を選んだ。大きな口でひと思いに食べてくれると思ったのだ。どうせ助からないなら、長く血を吸われるよりは、とその時は思った」


 明るい表情で言うロボだが、微かに声に弱さの色があったように感じた。


「だが、わからないものだ。狼男は自分をひと噛みだけしたらしい。らしいというのは、自分は噛まれたショックでそのまま気を失ってしまったからだ」


 死んだと思ったそうだが、目を覚ますと全く違う姿になっていたと言う。


 にわかには信じがたい話だが……。いずれにせよ、こいつの存在自体が、少なくとも人狼の存在を証明してしまっている以上、信じるしかない。


 こうなったら毒食らわば皿まで。いっそ全部疑問を解決しよう。


「……さっき純血種とか言ってたよな。純血種ってなんだ? ハーフとかいるって事か?」


「いや、噛まれた人間由来では無い人狼の事を純血種と言う。オオカミの神格化や、その零落した姿である悪魔とか、かな。自然発生した妖怪か神の類だな」


「神……」


「神と言っても一神教的なものじゃないさ。人が崇めるならそれは神で、それが力だ。この社にもそれは感じる。神は高等な存在すぎて自分にはかすかな気配としてしか感じられないが、もしかしてキミには見える、かな?」


「……いいや。流石に神様は見えた事はない」


 神まで行くと、現象に近い。存在として純粋な究極系だから、居て当たり前だけど姿が無いのも当たり前。重力とか電気に、意思が宿っているようなもの――とロボは言う。


 姿が初めから無いなら、見えなくて当然ではある。


 触らぬ神に祟りなし、とロボは言う。


 少なくとも社を壊しでもしない限りは、ここに居ようが別に問題はないそうだ。


 怒らせると話は全く変わるとも言った。


 ここの神のように神は八百万の言葉通り膨大な数が存在しており、土に着いてその土地を守っている。土地を守っているわけだから、それを荒らすなどして、怒らせると恐るべき力で罰を下す事がある、らしい。


「それからハーフだが、答えはイエスでもありノーでもある。人間と子を成す事はできるが、その子はほとんど人間だ。チンギス・ハーンの祖先はオオカミだと言うだろう? 世界中に似た話があるように、比較的大人物になるようだな」


「……だとするなら、子どもには親が見えないんじゃないか?」


「子ども自体は、親を認識する事はできる……と聞いたな。ただ、周りから見れば、ローマを建国したロムルスとレムルスのように、オオカミに育てられた、という風に認識がすり替わるようだ」


 ……少し寂しそうにロボは言った。

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