第13話 人狼のオスなど死んでも嫌だ

「な、なんでおれなんだよ。人狼のオスとかいるだろたぶん」


 頭に狼男の想像図が浮かぶ。実際に見た事はないが定番中の定番だと思う。


 が――


「人狼のオスなんて絶対に嫌だ。死んでも嫌だ」


 今度は打って変わって、心底嫌そうに眉根を歪めるロボ。


「なんで嫌なんだよ」


「クソ野郎だからだ」


 まるで汚物でも見るかのような、その表情。


 本当に、人狼のオスは嫌らしい。


「だとしても、な、何でおれなんだよ。他に男なんていくらでもいるじゃないか」


 絶対に裏があるはずだ。


 おれが、こんな絶世の美女から誘われるなんて事があるはずがない。


 それが、人狼だって言うなら、やっぱり食うためとか、裏があるに決まっている。


「いや、キミでないと困る」


「だから何で!」


「自分が『見えるから』だ」


 ああ。


 そういう事か。


 何となく、わかった気がする。


「人狼のオスなど死んでも嫌だ。だが毎年発情期は来る。いい加減ガマンの限界だ。だが、人間は、自分を見る事が出来ず、触れる事も出来ない。人狼は姿を見せずとも、人を害す事はできる。だが、人を愛すことはできない。見える相手が自分には必要だったのだ」


 それが、おれってわけか。


 見えないけど触れるのでは? と思うかもしれないが、それは違う。


 視認は、相手の存在を認める事……この世のものではないモノのルールみたいなものだ。妖怪を見てきたおれは、嫌というほどそれを知っている。

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