第4話 第13ダンジョン誕生

 俺とブランシュが、転移魔法で天界から地上へと飛ばされたのは、ヒケンの密林と呼ばれる太古の森の中。経営破綻した、第6ダンジョンからは東にある場所。


 生い茂った木々は高く、日中でも薄暗い。そして目の前には、木々に浸食された宮殿がある。崩壊し朽ちてはいるものの、依然として過去の栄光を伝えれるほどの大きさがある。


「ここが、始まりのダンジョンなの?」


「そうっ、神々が作り出した最初のダンジョンでもあり、始めて破綻したダンジョンでもある」


「レヴィンは、ここを知ってるのね?」


「ああっ、第6ダンジョンから繋がる秘密の抜け穴があるのさ。俺達しか知らない、緊急避難ルートってやつだがな」


 朽ちた宮殿の中に入ると、入り口近くの壁を触れば、点々とではあるが明かりが灯る。地上に姿を見せている部分も大きいが、ここはあくまでもダンジョン。宮殿の中には、地下へと繋がる入り口がある。


「ここって、汚染された魔力のせいで、天界から立ち入り禁止に指定されているエリアのはずよね」


「えっ、そうだったか? 確か、そういう事になってたかも……しれないな」


「勝手に入って、大丈夫なの?」


 心配する言葉とは裏腹に、ブランシュは訝しむような表情を見せる。第6ダンジョンも上層の10階層は辛うじて崩壊を免れたが、漂う禍々しい魔力のせいて封鎖されているらしい。


「俺達がここに侵入したのが、バレてた可能性もある……か」


 ブランシュの視線が痛い。


「熾天使筆頭のラーミウ様に隠し事は不可能でしょうね。他には? 体は大丈夫なの?」


「一応、体に異変はないと思う。痛いところも、痒いところもないし」


「ええっ、今後はしっかりと改善してもらいます。食生活だって、きっちりと管理させてもらいます」


「ちょっと待てって。たまたまなんだよ、本当に偶然。第6ダンジョンに転移魔法陣が現れたんだ。これだけは本当だって」


「これは本当なのは分かったわ。でも。サボるための抜け道として利用してたんでしょ」


「まあ、そういう捉え方も出来るが、今回は役に立ったはずなんだ」


 ダンジョンが破綻することを想定していたわけじゃないが、マリク達はここを通って脱出している。しかし、俺はすぐに天界の監獄に収監され、第6

ダンジョンの情報は全く知らない。


「流石マリク達も、まだこんな所には残ってないだろうな」


 強引に話を逸らすと、ブランシュは少し膨れっ面になっている。


「私が天界で苦労している間、あなた達もさぞ苦労していたんでしょうね」


「それよりも、早くダンジョンをつくろう。ダンジョンがあってこそのダンジョンマスター。ダンジョンの中での権限は不可侵。他の熾天使だって、熾天使筆頭のラーミウだって口を出せない」


「もうっ、そうやって都合が悪くなるとすぐ逃げるんだから」


 そう言いながらも、ブランシュは小指の先程の石の欠片を取り出す。これが、ダンジョンコアの元となる石であり、ブランシュがダンジョン創造の魔法を唱えれば、再びこのダンジョンが再生する。


「意外と小さいんだな」


「イレギュラーだから仕方ないのよ。まさか、ダンジョンが破綻するなんて想定外なんだから。本当なら、倍の大きさにはなっていたはずなのに」


「せいぜい、こき使って下さいな。ダンジョンマスター様」


 ブランシュが石の欠片に息を吹き込むと、一瞬だけ輝きを放つ。そして、ブランシュの手から浮かび上がる。


「リボーン・ダンジョン」


 詠唱の言葉を受け、ダンジョンコアの床へと吸い込まれて消えてしまう。それだけの変化だが、朽ち果て廃墟と化した宮殿からは、微かに魔力を感じる。


「これが、俺達のダンジョンか」


「ええっ、急造の再生させたダンジョンだから、今は5階層くらいまでかしら。猶予は、後3ヶ月。そこまでに10階層のダンジョンにする。それが、私たちの使命よ」

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