praying

 そう言い、彼女は僕の前を歩く。そしてたどり着いたのは——とあるビルの屋上だった。


 「きれいだ——」


 長い足取りの果て。長い螺旋階段の果てにたどり着いたのは、まさに“息を呑む絶景”だった。少なくとも、『きれいだ』なんて言葉が無意識に出てしまう程度には。


 「そうでしょ!私この景色が大好きなの!」


 日が傾き始めた夕暮れ時。立ち並ぶ建物には灯りが点き始め、奥に広がる海は夕陽を反射し煌めいている。そして——


 「それにここからだと、『』がよく見えるでしょ!」


 初めて見た。


 『世界の塔』。この超高度文明を支える、世界各地にそびえ立つ塔。無数に伸びたアンテナは世界各地のインターネットをリアルタイムで接続・保護し、内部の研究室では、世界最先端の研究がされているらしい。


 というところまでは教科書で習ったが、実際に見たのは初めてだった。


 「確かにいい景色だね。でもどうして今日はここに?」


 しかし帰ってきたのは、答えにならない答え。ただ、僕の思考を凌駕する答えだった。


 「ねぇ、君はさ——と思う?」


 ——は?


 「——いや、なんでもない。ごめんね…でもいつか、またどこかで逢えたら——」


 いや、ちょっと待ってくれ。一体何の話を


 「君の名前、教えてね。」


 名前?そんなの今すぐ…僕の名前は——


 「——じゃあね。ばいばい。」


 気づいたときには、もう遅かった。


 「——!?」


 屋上の床が、地面が。世界が揺れている。次第に亀裂は広がり、急ぎ彼女を視界に入れようとしたところで。


 彼女の姿は、もうなかった。


 あぁもうなんなんだよ!!


 急いでブーツを点火しようとして、さらなる異変に気付いた。


 原子炉が点火しない——!?

 

 視界の端に、近くの建物が倒壊するのを捉えた。そのまま揺れに足を取られ、姿勢を立て直そうとしたところで。


 遅かった!!


 僕はそのまま、瓦礫の中に飲み込まれていった。

 

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