第15話

 いきなりの怒声に驚いて振り返ると、そこでは一人の男が顔を真っ赤にして俺を睨みつけていた。

「えっと、どちら様?」

 見知らぬ男に突然怒鳴りつけられて、俺はただ呆気に取られてしまう。

 そんな俺の隣ではルチカがとても嫌そうな顔をしていて、コレットも呆れたような表情を浮かべていた。

「はぁ……。いきなり現れて、いい加減にしてよね。アンタに付きまとわれて、私は迷惑してるんだけど」

「付きまとってなんて!? 俺はただ、ルチカちゃんが心配なだけだよ! 君みたいなか弱い女の子がソロで依頼を受けるなんて危ないから、俺がパーティーを組んで守ってあげたいんだ!」

 ルチカが、か弱い……?

 自分の身長の倍ほどもある熊の死体を軽々持ち上げるくらい力の強い彼女がか弱いなんて、いったいこの男はルチカの何を見ているのだろうか?

 思わず言葉を失ってしまう俺とは対照的に、ルチカは怒気を孕んだ口調で男へと怒鳴り返す。

「か弱いですって!? アンタ、私のことを舐めてるの?」

「い、いや……、そんなつもりじゃ……。俺はただ君のことが……」

「あいにくだけど、アンタと一緒に冒険するなんて願い下げよ。それにもう、私はソロじゃないし」

 そう言ったルチカは、あろうことかいきなり俺の腕にギュッと抱き着いてくる。

 そのまま男を挑発するように、彼女は俺の身体へと顔を寄せる。

「シュージはアンタなんかより何倍も強くて頼りになるんだから! つまり私たちは、公私ともに最高のパートナーってわけ!」

 いきなり行われた彼女の宣言に、遠巻きでこちらを伺っていた冒険者たちから冷やかすような黄色い声が聞こえてくる。

 視界の箸ではコレットも驚いたようにニヤニヤと笑っており、ひとり状況について行けない俺だけが目を白黒させていた。

 そのまま見せつけるように俺の身体に密着し続けるルチカを見て、目の前の男はついに限界を迎えた。

「クソォッ!! 俺を馬鹿にしやがって! せっかくこの俺が守ってやるって言ってんのに。お前みたいな尻軽女、こっちから願い下げだ!!」

 大声で好き勝手に叫んだ男は、そのまま逃げるように冒険者ギルドから飛び出してしまう。

 さっきまでルチカの宣言で盛り上がっていたギルド内もこれには一瞬だけ静まり返り、そしてすぐに笑い声が沸き上がる。

 負け惜しみを言って逃げた男をからかうような笑いと、ルチカと俺の中を冷やかすようなひそひそ声。

 そんな盛り上がりを尻目に、俺から離れたルチカは申し訳なさそうな表情で俺を見上げてくる。

「ごめんね、シュージ。やっぱり面倒ごとに巻き込んじゃった」

「いや、俺は大したことしてないし別に構わないんだけど。それにしても、今の男はなんだったんだ?」

「アイツ、この間からずっと私に付きまとってきてたの。女の子がひとりじゃ危ないからー、とか言って。余計なお世話だっての」

 男が消えていった扉に向かってべえっと舌を出したルチカは、やがてスッキリした表情で俺へと向き直った。

「よし! 邪魔者は居なくなったし、さっさと手続きを済ましちゃおう」

 その言葉で、遅ればせながら俺はまだ手続きが終わっていないことを思い出した。

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