第14話

「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょう?」

 にっこり笑顔で俺たちを迎えてくれた女性に、ルチカは気さくな調子で声を掛ける。

「やっほ、コレットさん。今日は、将来有望な新人を連れてきたんだ」

 ルチカの言葉でこちらを伺う女性──コレットとバッチリ目が合うと、彼女は俺に向かってニッコリと笑顔を浮かべる。

「将来有望ということは、本日の用件は冒険者としての登録でよろしかったでしょうか?」

「有望っていうのはルチカの買いかぶりだけど、登録はしようと思ってるよ」

 ルチカの言葉を否定しながらも頷いた俺に対して、コレットは気にした様子もなく微笑みながら口を開く。

「どちらにしても、冒険者ギルドはあなたを歓迎します。まずはこちらにお名前と記入をお願いします。字が書けない場合は、代筆することも可能ですが」

「……いや、大丈夫だよ」

 異世界の文字が読み書きできるのか一瞬だけ不安だったけど、どうやら女神から授けられた『異世界言語』がちゃんと仕事をしてくれているようだ。

 文字もしっかり読めるし、日本語のように書くこともできる。

 サラサラッと必要事項を書き終わると、コレットがそれをしっかり確認する。

「はい、これで大丈夫です。改めまして、私はコレットと申します。今後ともよろしくお願いしますね、シュージさん」

「ああ、こちらこそよろしく」

 挨拶とともに頭を下げるコレットに釣られるように、俺も微笑みながら挨拶を交わす。

「では次に、こちらの水晶へ手をかざしていただけますか?」

 そう言って彼女がカウンターの下から取り出されたのは、真っ白に澄んだ水晶玉だった。

「これが、さっき言ってた魔道具だよ。犯罪歴があると黒く濁っちゃうから、色が変わらなければオッケー」

 耳元で補足説明をしてくれるルチカに小さく頷きながら、俺はそっと水晶へ手のひらをかざす。

 そのまましばらく待ってみても水晶の色は白いままで、それを見届けたコレットは満足げに頷く。

「はい、大丈夫です。それでは最後に冒険者になるための簡単な試験を、と言いたいところですが」

 そこで言葉を切った彼女は、俺の隣でニコニコしているルチカへと視線を向ける。

「今回は、ルチカさんの推薦ということでよかったでしょうか?」

「うん、それでオッケーだよ」

「でしたら今回の試験は免除となります。冒険者証をご用意しますので、しばらくお待ちくださいね」

 どうやら、これで登録は終わりらしい。

 ずいぶんとあっさり終わったことに若干拍子抜けしながらも、無駄なトラブルがなかったことに胸を撫でおろす。

 アニメとかだとこういう時って、だいたい絡まれるからなぁ。

 なんてことを考えたのが悪かったのかもしれない。

「おい、てめぇ! ルチカちゃんから推薦を貰うなんてふざけんじゃねぇぞっ!」

 安心して油断した俺の背後に、トラブルの種が向こうから歩み寄ってきた。

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