第3話
真っ白に染まった景色が元に戻ると、俺は見知らぬ場所に立っていた。
視界を遮るようにうっそうと茂る木々に、微かに聞こえてくる鳥のさえずり。
どこからどう見ても、ここは森のど真ん中だった。
「いや、なんでよりによって森の中なんだよ。どうせだったら街の近くか、せめてもっと見通しの良い草原とかに送ってくれよな」
最早どこにも見当たらない女神に悪態を吐いても、当然のように返事などはない。
「はぁ、しょうがないか。ともかく、まずは状況の確認から始めよう」
長年のブラック企業勤めですっかり社畜根性が染みついてしまった俺にとって、この程度の理不尽など慌てるようなことではない。
偉そうに指図するだけで自分は何もしないクソ上司からの無茶ぶりの方が、今の状況よりもよっぽど大変だったし……。
「っと、危ない危ない。危うく闇堕ちしてしまうところだった。……まずは、スキルって奴の確認だな」
確か女神さまは、『手からイモを生み出す能力』って言ってたよな。
……冷静に考えても、相変わらず意味の分からないスキルだ。
「そもそも、スキルってどうやって使うんだ? なんでも良いから出て来い、イモ!」
とりあえずそう叫んでみると、上を向けた手のひらから勢いよくジャガイモが飛び出してきた。
ポンッと軽い音を立てて空に向かって飛び出し、やがて落下してくるジャガイモを慌ててキャッチする俺。
掴んだその感触は、間違いなく本物のジャガイモだった。
「ははっ、本当に出てきたよ。マジで意味が分かんねぇ」
そもそも、どういう原理で手のひらからジャガイモが飛び出してくるんだ?
まさか俺の身体の中に大量のジャガイモが埋め込まれているわけでもないし、と言うことはこのイモは何もない空間でゼロから創り出されたことになる。
「これって、無限に生み出せるのか? だとしたら、意外とこの能力って使えるんじゃないか?」
元手を一切かけずにイモが手に入るなら、それを使って商売を始めればどれだけ安価で叩き売っても多少の利益を得ることはできるだろう。
「よし、そうと決まればまずはこの森を抜け出さないとな。商売を始めるにしてもまずは人の住んでる街か、せめて村まで行かないと」
それにあの適当そうな女神のことだから、この場所が安全とは限らない。
普通なら転生する初期地点くらいは安全なんだろうけど、あの女神は十中八九そんなことなんて考えていないだろう。
「せめて日が暮れる前に、森から抜け出せればいいんだけどなぁ……」
そんな希望を呟きながら、俺はとりあえず適当な方向へ向かって歩き出すのだった。
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