第2話

 それからしばらく女神に対してなんとかならないかとゴネてみたものの、返ってくる答えは「無理」の一言だけ。

 取り付く島もないとは、まさにこのことである。

「……分かった。ならイモの能力で良いよ。その三つの中じゃ、一番使い道がありそうだし」

 ゴミみたいな性能とはいえ、その能力があればとりあえず食うには困らないだろう。

 だったら、異世界で適当にスローライフでも送るとしようじゃないか。

 そうやって自分をむりやり納得させると、俺の気が変わらないうちにと女神はさっさと手続きを始めた。

「では、あなたに『手からイモを生み出す能力』を授けます。余ったキャパシティーに『異世界言語』と『生存技術E』も詰め込んでおくので、これで転生してもとりあえず最低限の生活はできるはずです」

 言いながら女神が手をかざすと、俺の身体が一瞬だけ微かに発光する。

 しかしそれも一瞬のことで、その光が消えると女神は軽く頷いて口を開いた。

「はい、これで能力の付与は終了です。では、後の予定も詰まってるのでさっさと転生してしまいましょうか」

 もはや面倒くささを隠そうともしない女神は、言いながら手をさっと横に振る。

 すると俺の足元に魔法陣が浮かび、それはゆっくりと回転を始めた。

「ちょっ、待ってくれよ! もう少しちゃんと説明を……!」

 まだまだ聞かなければいけないことは沢山あるのに、女神に躊躇はない。

 パチンッと女神が指を鳴らせば、足元で回転する魔法陣から溢れた光が俺の身体を包み込む。

「では新しい生活へと、いってらっしゃい」

 女神のその言葉を最後に、俺の意識は真っ白に染まっていった。


 ────

 この世のどこでもない空間。

 先ほどまで冴えない男が立っていた場所を見つめながら、女神は深いため息を吐いていた。

「はぁ、やっとミスの後処理が終わったわ。ほんと、メンドくさいったらないわね」

 元はと言えば自分の犯した凡ミスのせいとは言え、どうして女神である自分があんな下等存在に力を分け与えなければいけないのだろう。

 まぁ、今回の人間は容量が少なかったからしょぼい能力を与えるだけで済んでラッキーだったけど。

「それに、あんなゴミ能力じゃたぶん長くは生き残れないでしょ。あの人間がもう一回死んだところで魂を回収して元の輪廻の中に戻せば、証拠隠滅は完璧ね」

 うん、我ながら名案だ。

 間違えて本来とは別の人間を殺してしまった時はちょっとだけ焦ったけど、これで他の神たちにバレることはないだろう。

「そもそも、人間って見分けがつけにくいのよね。それなのに、ちょっとミスしただけでものすごく怒られちゃうし。ほんと、嫌になるわ」

 まったく反省する素振りを見せない女神は、それっきり興味を失くしたように欠伸をしながらその場を後にする。

 すでに記憶から消えつつある男の存在が世界にどんな影響を与えるか、女神はまだ知る由もなかった。

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