【完結】書き込みから始まる復讐物語

松本ショウメン

第1話 ただの愚痴みたいなもの

 助けて下さい。

 彼女を寝取られました。


 僕には現在、高校1年生の時から一年半付き合っている彼女がいます。

 高1の時に同じクラスになって知り合い、頑張って付き合った、初めての彼女です。


 その彼女が、彼女の幼馴染(?)に寝取られてました。


 知ったキッカケは、隙をついて彼女のスマホを盗み見た事です。

 勝手に見るのは悪い事だと自分でも理解してますが、あまりにも最近の彼女の態度がおかしかったんです。


 例えば放課後、彼女の帰りの電車を待っている時。

 今まではそんな事をしなかったのに、最近やたらとリップの塗り直しをしてました。

 リップって言っても、ケア目的のやつじゃなくて、しっかりと色の付いた口紅です。

 家に帰るだけなのに、する必要あるのかなと疑問でした。


 他にも、急に彼女は長かった髪を切ってボブにしてました。

 しかも切った後、別に僕に反応を伺うわけでもなく、当たり前の様に平然としてました。

 友達に「女は好きな男ができたら髪を切るんだぜ」と事前に聞いていたので、不安になった要因の1つでした。


 正直これだけでは、疑う根拠として弱いだろって思うかもしれません。

 でも、それだけじゃなくて。

 なんとなくというか、勘というか、彼女の雰囲気がいつからか凄く変わったんです。

 僕への接し方は大して変わらないのに、どこか違う気がする。


 段々と不安が募っていき。

 ついに先日、彼女のスマホを覗いてしまいました。


 そうしたら最悪なことに、嫌な予感が的中。

 彼女は男と卑猥なやり取りをめちゃくちゃしてました。


 ここでそのやり取りの詳しい内容を書くのはあえて避けますが、まぁ大体『今日はめっちゃ気持ちよかった爆笑』的な、そういう夜の営み関連の感想会みたいな感じでした。


 僕は彼女と、ハグやキスはしたことあっても、そういった事まではしていません。

 彼女に、そういう目で見てるって思われたくなかったし、万が一を考えて、親元を離れても生きていける年齢、少なくとも18歳になってからにしようって2人で話して決めてたからです。


 でも、彼女は裏で男とめちゃくちゃにやってました。


 胸が本当に締め付けられているみたいに苦したかったです。

 同時に、はらわたが煮えくり返る程の怒りも湧いてきた僕は耐えきれず、スマホを見せながらすぐに彼女を問い詰めました。


 すると彼女は泣きながら「断れなかったの」と僕に言ってきたんです。

 泣きたいのは僕の方だったんですけどね。


 落ち着いて訊くとどうやら、相手の男は小さい頃からの知り合いらしく、家族ぐるみの付き合いもあるみたいで、家にも気兼ねなく入る間柄と。


 それを男は利用して、僕と彼女が付き合い始めて9カ月目くらいの時に、無理矢理彼女を押し倒して行為に及んだみたいです。しかも男は「これを誰かに言ったら俺達の親が迷惑するからな」と彼女を脅したみたいで。

 もうそこからは男の気分で家にやって来ては、行為をするという状態になっていったらしいです。


 は、普通に断れば良いじゃん。


 そう彼女に伝えたら「怖かった」、「親同士が仲良いから、迷惑かけたくなかったの」と言ってきて。

 いや、僕には迷惑かけてもいいのかよ、とも思いましたけどそれは心の中でグッと堪えて。


「じゃあ僕が、もう彼女に手を出すなってソイツに伝えるから、どこの誰なのか教えて。名前は?」って聞いたんです。


 そしたら彼女、なんて言ったと思います?


「※※※くんは入ってこないで欲しい」


 そう僕に言ってきたんですよ。

 しかも続けて。


「なんとか私だけでどうにかしてみるから。待ってて欲しい」って。


 ふざけんな。今まで1人じゃどうにもできなかったから、関係が何カ月もズルズル続いたんでしょ?

 問題解決、本当にできるんですか?

 僕は一体、どれだけ待てばいいんですか?

 僕は一体、どれだけ裏切られ続ければいいんですか?

 本心は、その男を守りたいんじゃないの?


 みたいな感じで、色々言いたい事はあったんですけどね。


「わかった」


 彼女に嫌われたくなかった僕はそれしか言えず、結局その場は解散しちゃって。

 

 それから2週間ほど経ちますが、一向に彼女からの連絡はなく、学校で話すことも顔を合わせることもなく。

 こうして書き込んでいる今に至ります。


 正直めちゃくちゃ悔しいです。

 3カ月ごとに、付き合った記念日をお祝いしてたのに。付き合って一年半の記念日は何もなく過ぎ去ってしまいました。

 記念に買っておいたペアリングが、なんかもう寂しいというか虚しいです。

 このまま記念日を祝う事なく、ペアリングも渡せずに自然消滅しそうな勢いです。

 いくら泣いても叫んでも、今の状況が全く変わる気がしません。


 彼女を犯した相手すら、どこの誰かもわからず、このまま終わるのはあまりにやるせないです。

 なので、どうかせめて、そのクソ男だけでも、厳しい制裁を加えてください。

 どうかよろしくお願いいたします。


 #復讐代行人※■%さん



――――――――――――――――



「……よし、こんなもんか」


 SNSへの書き込みを終えた僕は、目を閉じて椅子に深く座り込む。

 そして、大きなため息をつき……


「なにやってんだろ」


 自分が今した事の下らなさを自覚する。


 ――復讐代行人%※■さん。


 SNSに、自分が受けた被害の内容と復讐して欲しい人物の名前を書いて、それの最後に『#復讐代行人■%※さん』と付けて投稿すると、どこかの誰かが代わりに復讐してくれるらしい。


 そんな噂を聞いた僕は、少しでも気が晴れるなら、と憂さ晴らし程度に書き込んだ。


 こんなのは所詮、都市伝説。全くもって信用していない。

 だから、名前とか学校名みたいな個人を特定できる詳しい事は何一つ書かなかった。そもそも復讐して欲しい相手の名前を僕は知らないしね。


 これはただの愚痴みたいなもの。

 心に溜まってた気持ち悪いモヤモヤを吐き出したかっただけ。

 スッキリできれば、それで良かった。


 なのに。


「あー鬱陶しい……」


 目を瞑ってるのに、隙間からどんどん溢れてくるモノがあった。

 ティッシュで拭いても拭いても、それは止まってくれない。


「なんでこうなるかなぁ……」


 気持ちの整理が一切つかない自分と、置かれた状況に苛立つ。


「……もう何も考えたくない」


 色々と嫌になった僕は椅子から立ち上がり、ベッドに崩れるようにして横になった。



「…………っ、るさい」


 鳴り止まないインターホンの音で目が覚める。

 いつの間にか寝てしまっていたらしい。

 スマホで時間を確認すると、17時を過ぎていた。


「2時間も寝てたのか……」


 泣いた後すぐに眠ったせいか、頭がにぶく痛い。

 しかもそこに、インターホンの刺すような高音が響いて、痛みがさらに増す。


「ったく、まじでしつこいな」


 家には僕しかいないのか、誰もインターホンにでる気配がなく、ひたすら家中に鳴り響き続けている。


 ――ピーンポーン

 ――ピーンポーン

 ――ピーンポーン


「…………」


 ……一体、誰なんだ?


 目が覚めてきて、冷静に今の状況を理解できた僕はふと疑問に思った。


 ここまで何回も何回も執拗に押し続けるって、かなりヤバい人なんじゃ?

 普通なら、1、2回押してみて誰も出なかったら、留守だと思って帰るだろうし。


 まさか、幽霊……?


「…………一応、確認してみるか?」


 僕は背中に走る恐怖を、少しの好奇心でなんとか押し殺し、部屋を出て、リビングにあるインターホンに忍び足で向かう。

 そして時間をかけて着いた僕は、恐る恐るモニターを覗く。


「――えっ?」


 するとそこに映っていたのは、『復讐代行人※■%』と書かれた名刺を片手で持った、サングラスのオジサンだった。

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