第10話 ランク制度

 ――その日の夕方。


「警察から連絡が来たときは、心臓が止まるかと思ったよ。遂にやらかしたかと思って」


 自分が運転する車内で、孝彦は言った。


「タカ兄の中での俺のイメージ、ひどすぎだろ」


 陽介は呆れ顔を孝彦に向ける。孝彦は誤魔化すように笑うと、続けた。


「いやぁ、でも、遅れてすまんな。こういうときに限って、カーシェアの車が無くて」


「電車で良かったのに」


「ばか。こういうのは、車で駆けつけるもんなんだよ。他の方の目もあるし……」


「ステッカーで借り物だってことがバレるでしょ。そっちの方が恥ずかしくね?」


「そんなの俺のマジックを使えば、何とかなる」


「いやいや、警察の前でそれをやっちゃ駄目でしょ」


「まぁな。……それにしても、ずいぶんと活躍したらしいじゃん?」


「ああ。それなりだけど」


「陽介が助けた子、可愛かったな。このまま、付き合えるんじゃないか?」


「……そんな考え方してるから、結婚できないんじゃないの?」


「あ、また、俺が結婚できないことをいじった。今すぐ降りろ!」


「はいはい」


 陽介は呆れながら、スマホを取り出す。通知を見て、一回目のアーカイブにコメントがあったことに気づき、確認した。


@aoi:いっちを助けてくれて、ありがとう!

@nene:こっちでも力業w

@aaa:マジックじゃなくて草


 たった3件であったが、それでも陽介は嬉しくなって、にやつく。チャンネルの登録者数も10人になっていた。


「お、良いことでもあった?」


「ああ。チャンネルの登録者が増えていた」


「マジ? あんな面白みの欠ける動画に?」


「甥っ子の動画に対して辛辣すぎるだろ。ってか、そんな風に思っていたら、何かアドバイスしてよ」


「陽介の成長のチャンスだと思って……。まぁ、アドバイスするとしたら、もっと本格派をフリにした方が良いんじゃないかなとは思うよ」


「……どういうこと?」


「例えば――」


 そんな感じで孝彦と話しているうちに家に着いた。孝彦はバーがあるので、そのままバーに向かい、陽介は一人で家に入る。


 すると、心配そうな顔つきの文司と興奮した面持ちの寅子に迎えられ、その日は寿司パーティーとなった。


 ――その日の夜。


 陽介はベッドに寝転がって、スマホでゲームをしていたが、思い出したように体を起こす。


「……ランク制度について確認しておこうか」


 一花がランクについて言っていたので、パソコンの前に座り、『ランク制度』について調べる。筆記試験でも出てきたからランクについては知っているが、念のため確認することにした。


 陽介は動画サイトを徘徊し、よさげな解説動画を見つけたので、それを視聴する。


 その動画によると、探索者のランクというのは、探索者の実力とダンジョンの難易度でミスマッチが起きないようにギルドが定めた探索者の実力を示す指標のことだった。


 そして最初は、ダンジョン探索実績を基に、各探索者のランクを決める制度『実績型ランク制度』を導入していた。


 しかし、ダンジョン配信が始まると、アメリカで探索者同士がランクをめぐって競い合う『ランク戦』が人気コンテンツになり始める。


 ギルドがそれを真似てみたところ、ギルドの予想を超える反響があり、これに味を占めたギルドは、ランク戦によってランクを決める制度『競争型ランク制度』を導入した。


 現在は、どちらも採用されていて、ランク自体は共通しているが、認定難易度に関しては、『競争型ランク制度』の方がより高いランクに認定されやすくなっていた。


 このやり方に対しては賛否の声が上がっており、ランク戦によって税金に頼らない運用基盤を形成できるようになった点や競争の原理によって探索者の実力が上がりやすくなった点を評価する声がある一方、ダンジョン探索ではなく、競争に最適化した人間だけが残り、本来のダンジョン探索ができなくなるのではないか? といった懸念の声もある。


 いずれにせよ、探索者として活動したいなら、現在は『競争型ランク制度』でランク認定を受け、いわゆる『ランカー』になることが推奨されていた。ランカーになった方が探索できるダンジョンが増えるからだ。


 で、肝心のランクについては、高い方から、S、A、B、C、D、Eとなっており、Eと判定されるためには、参入戦と呼ばれる大会で勝利する必要があった。


(じゃあ、この参入戦とやらに出場すればいいんだな)


 そこまで確認したところで、陽介は眠くなったので、欠伸が出てきた。


(今日はもう寝るか)


 そのままベッドに入り、陽介は眠りにつく。


 ――翌日。


「陽介ー! ちょっと来てみなさい!」


 虎子の大声で陽介は目覚める。


 時間を確認すると、6:00だった。夏休みの惰眠を貪りたい学生にとっては、早すぎる起床時間だった。


 しかし、虎子を待たせるわけにもいかないので、渋々虎子がいる食卓へ。


 そこには文司もいて、二人はテレビに釘付けだった。


「これを観なさい」


 虎子に指さされたテレビを観て、陽介は完全に目が覚める。


 一花を助ける自分の姿が映し出されていた。

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