イエスマンのおっさんが異世界でNOと言えるようになったら、最強になりました
パピプラトン
001 答えは――”NO”だッッ!!
この世界はクソッタレだ――いや、この世界
「おいッ!! てめぇらの仕事は命を懸けてこのポーションを指定の場所に届けることだ!! わかったら手術台に横になれ!!」
俺はただ生活費の為、割の良い仕事にありつこうと思っただけなんだが。まさか仕事の依頼が違法ポーションの配達人だったとはなぁ。どんな世界だろうと美味しい話には裏があるってことだ。
正面には血がこびりついた手術台と禍々しい手術道具が置かれており、その向こう側に
「お、俺は嫌だ! こんな仕事受けていられるかってんだ! 俺は帰らせてもらう!」
俺と同じようにバイト感覚で応募したであろう男が部屋を出ていこうとする。
(あぁ、そのセリフは……)
俺が制止する声を上げる間もなく男が出口の扉を開けた瞬間、外で待機していた2メートルを超える屈強な体つきの――恐らく用心棒の男に大剣で斬りつけられる。
「ぎゃあああああああ!!」
上半身を真っ二つに斬られた男は倒れて痙攣している。恐らくもう手遅れだ。
「逃げようとした奴はこうなる。分かったら、さっさと手術台に横になれ!! さっさと違法ポーションをてめぇらの体に隠すんだ!!」
違法ポーションとは、ポーションという名が付いてはいるが簡単に言えば麻薬だ。重度の中毒性があり、長期間使用すれば心身共にボロボロになる。
「おい、まずはお前だ! ほら、黒髪の、てめぇの事だよ!! 分かったならさっさと動け!!」
デブでハゲで完璧に悪人面の依頼主――恐らく組織の頭領であろう男が俺を指差しながら急かす。前世の俺だったらブルブル震えながら”はい”一択だっただろうな。だが、今は違う。
「うるせぇな。こんな面倒な仕事だったら最初から言っておけよ。ただの配達の仕事だっていうから応募したってのによ。お前らみたいな奴らが多すぎるから、この世界はクソッタレなんだよ」
俺が愚痴をこぼすと、何を言い出したんだコイツという視線を向けてくる。
「おいおい、何言い出してんだおめぇ。さっさと……」
「この仕事は絶対に受けない。答えは――”NO”だッッ!!」
俺の宣言と共に体の奥底から力が
「なんだとこの野郎! 痛い目を見ねぇとわからねぇのか!?」
俺は内ポケットから煙草を取り出すと口に咥えて火を点ける。大きく息を吸い込み、紫煙を吐き出す。煙が俺と周囲の人間にまとわりつく。
この煙草は知り合いの魔女が作った特別製だ。煙がある種の障壁となってくれるらしい。まぁ、俺は気休め程度と考えているが、一般人には有効だろう。これで暴れる準備は完了だ。
「ふぅー……もう問答はいいからさっさとかかってこい。俺は次の仕事を探さなくちゃならないんだ」
俺は左手で手招きし煽る。
「コイツに身の程をわからせてやれ!!」
先程の用心棒が大剣を構えてこちらに向かってくる。
「おおおおおぉぉぉぉ!」
真正面、大上段から剣を振り下ろし襲いかかってくる。一般人からすれば大男がでかい剣を振り上げて襲ってくるなどという状況は最悪の状況だ。だが、それはあくまで一般人のレベルでの話だ。今の俺にとっては最悪の事態というよりも面倒くさいという一言に尽きるかもしれない。
「遅い」
俺は急加速で敵の懐に踏み込むとすれ違いざまに拳を叩き込む。それだけで用心棒は吹き飛び、壁に頭をめり込ませた。
「な、な、な、何が起きた!? どうして奴はまだ立ってるんだ!? ウチの用心棒に何しやがった!!」
「うるせぇ! お前も頭領なら責任を取りやがれ!!」
俺が頭領に拳を向ける。
「よ、よせ! 俺に手を出したらアイアンブラッズが黙っちゃいねぇぞ!」
「知るかっ!」
俺は頭領のでっぷり太った腹をぶん殴る。アイアンブラッズはたしか有名なマフィアだと聞いた事があるが、そんな事は関係ない。俺はもう我慢する事を辞めたんだ。
「ぎゃぴいいいいい!」
腹をおさえて
「言いたいことはそれだけか?」
「俺が悪かった! この通り降参だ。どうか許してくれ!」
「本当に反省しているか?」
俺の問いかけに頭領はブンブンと首を縦に振った。
「では、今後二度とこのような事はしないと約束できるか?」
「ああ、約束する! 神に誓う! 俺のお袋に誓ってもいい!」
頭領は土下座し、約束をした。
「そうか……だが、許さねぇよ」
「は?」
顔を上げ、まるで信じられないといった顔でこちらを見る頭領。俺はその顔をビシっと指差して
「は? じゃねぇよ。お前土下座しながら笑ってたろ。口の端が隠しきれてねぇんだよ。しかも、お前のお袋に誓うとかなんとか言ってたが、俺の事を騙せると思って調子乗ってたんだろ」
「く、クソ!! てめぇら!! そこの女を人質にしろ!!」
「ボ、ボス! 分かりました!」
手下たちが近くにいた女に近づこうとする。しかし、手下たちは女の周囲に渦巻く煙に阻まれ、女に触れることが出来ない。
「ど、どうなってんだ!?」
「雑魚がいくら頑張っても無理だ。その煙は魔女の特別製だからな」
「役立たず共があああ! 死ねええええええええ!」
頭領は本性を現し、隠し持っていたナイフで襲いかかってくる。だが、どうということもなく余裕で回避し、カウンターのフックを顔面にぶち当ててやった。
「ぶぎゃっ」
頭領は空中で
「ふん、頭領と言っても所詮はこの程度か。おい、下っ端ども! お前らも真っ当に働きやがれ!」
俺は一瞬で間合いを詰めると手下どもを殴り倒した。これで戦いとも呼べないような戦闘は終了だ。
落ち着いてくると同時に身体の底から湧き上がるような力は消え去り、反動で身体のあちこちが痛み始める。
「いててて、これだけはいつまで経っても慣れねぇなぁ」
俺が痛みに耐えているとガバッと後ろから抱きつかれた。
「助けてくれてありがとうございます!」
見ると、若い女性だった。極限状態から解放されたせいか頬を赤く染め涙目となっている。周りを見渡すと地面に座り込み呆然としている男や泣き崩れている女が居る。そして、俺が倒した奴らがそこかしこに転がっている。
更に、部屋の大金庫の扉が壊れて中の財宝がこぼれ落ちている。
「財宝は全部いただくとしてだ。この後、どうすっかなぁ。さすがに、我関せずサヨウナラとはいかないか……」
衛兵に被害者の引き渡し。アイアンブラッズとかいう組織との対立。俺はこの後の面倒事を想像して、こんなことならイエスマンだった頃の方が良かったか、と自問した。過去の記憶がフラッシュバックする。が、聞くまでもないことだと首を振り、倒れている連中を拘束する作業を始めるのだった。
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