CHAPTER1 血塗られたワイン
2025年7月の真夏日、AIの進化によって生活が豊かになっても、労働者やこの世界を作っている仕事をする人々は毎日汗をかいて生活を営んでいた。そんな現代で「暗殺」という仕事で血と汗を流す者もいた…
数ヶ月前のある日のインド、ムンバイを本部に置く大企業"SII"は主に医療機器を製造・販売する会社でインド中の病院や医療機関と取引する超大手企業として有名だった。しかしインドでは黒い噂が流れており、その内容は闇医者に違法な医療機器を売り渡し、それが臓器売買に使われるというものだった。さらに臓器を奪われて亡くなった患者らは、SIIと病院側で死を偽装され、原因不明の死で片付けられてしまっていた。SIIの代表取締役社長"ゴパル"は臓器売買や闇医者との繋がりで莫大な利益を持ち、自由気ままに生活していた。自分に死の運命が近付いているとも知らず…
Green Roseのセーフハウス、この場所は組織の人間しか所在を知らない。そこで作戦会議が行われていた。そこにいる人物はスカーレット、そしてモニター越しに彼女に語りかける組織のトップ"カサンドラ"。カサンドラは顔を見せておらず、性別が女性以外何もかもが謎に包まれた人物だ。
「カサンドラ、次は誰を殺せって言うの?」
「今回の件は実に目障りな奴なのよねぇ、ムンバイの大富豪ってとこかしら」
「言っとくけど、私は外道とみなした奴じゃなきゃ任務は受けないわ。あなたがターゲットにするってことは、よっぽど裏があるんでしょ?」
スカーレットは暗殺者といえただの人間だ。人を殺すことに勿論躊躇いがある。だからこそ彼女は社会にとって脅威になる存在しか消さないのだ。
「わかったわかったわ、やっぱりスカーレットはせっかちなんだからぁ。単刀直入に言うと、今インドでは知らない者がいないほどの大企業、SIIの社長が今回のターゲットよ」
「SIIの社長、ゴパル?」
確かにゴパルを早く消しておかなければこれからもっと犠牲者が増えるかもしれない。スカーレットにとって殺すには十分の標的だ。
「奴はほとんどの時間会社にいる。一刻も早く消すことね」
その言葉を受けたスカーレットは絞殺用のワイヤーとサイレンサー付きのUSPをバックパックにしまい、裸足の上にローファーを履いた。そしてセーフハウスを後にし、単身ムンバイへと赴いた。
翌日、ムンバイへと辿り着いたスカーレットは一般人が歩く雑踏の中にいた。この頃は乾季でアメリカ人の彼女にとって過ごしやすいとはいえない。しかし現地の人は中々フレンドリーであり、他国からの旅行者として彼女と仲良くなる人もいた。彼女は現地の人に誘われ、カレーを食べながら少しあることを聞いてみた。
「ところで、あの中心にある大きいビルには一体何があるんですか?」
「あのビルは確か大企業のSIIのオフィスがあるはずだよ。聞いた話でしかないんだけど、多分一番上のほうに」
「その、SIIってオフィスは社員以外が出入りしてるの?何か外やたら警備員っぽい人がいたから」
スカーレットはある程度想像はついているのだが、ターゲットに辿り着くにはどうしても潜入しなければ話にならない。おそらくゴパルは臆病者で、敵対する組織に狙われないように護衛を金で雇っているのだろう。
「多分あの警備員はただの警備員じゃないよ。だって、僕この前見ちゃったんだ」
「一体何を見たの?」
そう聞いた瞬間彼に震えるような挙動が見えた。身の毛もよだつ経験でもしたのではないだろうか。
「この前ホームレスが間違えてその敷地内に入ったんだ。そしたら、躊躇なくその人に向かって発砲したんだ…!」
「何ですって?」
やはり雇っている警備員の正体は武装集団であろう。その日は現地の人との会話だけで1日が終わり、宿の寝室で目を閉じた。その翌日、「野暮用があるのでこれで失礼します。ありがとうございました。」とだけ置き手紙を残して去った。早朝、ビルの門番をしていた警備員を一人ワイヤーで殺さない程度に締め上げ、その身体をロッカーに閉まって潜入に成功。たしかに彼女にとって警備員の男も敵ではあるがあくまでターゲットではない。彼女のポリシーは犠牲者を最小限に抑えることでもある。潜入に成功したとはいえ室内を警戒する警備員等はみんな男性のため、服を奪って変装することはできない。だが変装ができなくても周囲には物を投げて音を出し、ガシャンの音で誘導させることならできる。こうして物音で誘導するなどし、一人も気絶させることなく社長室のある階に到着する。しかし流石社長室であって警備員ではなくSPが何人も護衛に回っていた。いくら彼女とはいえ正面から突破するのは自殺行為だ。彼女は頭を回転させ、何と社長の愛人と思われる女性がスカーレットと容姿と骨格が似ていることに気付いた。ゴパルを痕跡なく殺す手段を閃いたのだった。愛人がゴパルから離れ、愛人がシャワーを浴びようと部屋に行くと突然目と口を塞がれる。
「しっ!騒がないで、よく聞いて…あんたの愛人は今日死ぬ。だからあなたのドレス、貰うわ」
愛人はターゲットではないが、ゴパルの悪事を知っておきながら黙認していたことは罪だ。
「命までは取らないけど、目が覚めたら警察に自首しなさい。しなかったらあなたは呑気にこの国では生きられないわ」
そう言って愛人に釘を刺し、強引な手であるが拳を一発叩き込んで気絶させた後、ドレスを拝借し変装した。愛人が入れ替わっていることを知る由もないゴパルは呑気にスカーレットという死神を誘惑していた。
「なぁ遅かったじゃないかぁ、俺の下半身はもう用意できてるぜぇ」
奴は昼間から相当飲んでいるのだろうか?口からはかなりの酒臭さが漂っている。それに奴はいつも愛人と営んでいるのかと考えると早く任務を終わらせたい気持ちだ。ゴパル本人が入れ替わっていることに気付かないにしてもSPが変装に気付くかもしれないため、時間はあまりない。周りにあるものを探していたら、バケツに入った氷とゴパルが普段しようしている鉄アレイがあるとに気付く。そして彼女は赤ワインを飲みつつ、ゴパルと酒を飲み交わした。やがてゴパルがさらに酔い、自然と氷水が飲みたくなる。だがいつもある場所に氷がない。
「あっ何だ、こんなとこに氷あるのか」
とゴパルがバケツに入った氷を取りに行った瞬間!
「うわぁ!」
何と床に一つの氷が落ちており、それに滑って真後ろに倒れたゴパルはそのまま鉄アレイに後頭部を強打する。これは完全な致命傷となり、脳挫傷によりゴパルは死亡。彼女はその亡骸を眺めながらをグラスに残るワインを飲み干した。
叫び声につられたSPたちは慌てて社長室に行ったときには既に死亡していた。ビル内に警報が流れ犯人の大捜索が始まったものの、彼女は見付からない。それもそのはず、彼女はドレスを着たままのため慌てているSPは愛人になど目を向けない。そして下の階に降りると元の服装に着替え脱出。暗殺の目撃者プラス証拠ゼロ。完全なる暗殺任務を終えたスカーレットはムンバイを去っていった。
その後SIIは間もなく倒産。後継者は誰も現れずSIIと取引をしていた闇医者らも資金を失い路頭に迷う結末となった。今回の事件も犯人が不明となるが、世間では姿の見えない世界の護り人として讃えられるのだった。
「今回の任務の報酬はたんまりあるわ」
「いらない、全て恵まれない子供たちに寄付して」
「やっぱり相変わらずね、流石私が見込んだ女。強さだけじゃなく優しさも強い」
信じられるだろうか?彼女は得た報酬の大半を恵まれない子どもたちに寄付しているのだ。カサンドラが言う彼女の優しさの強さという表現はスカーレットという女性に対して尊敬の心と共に、同時に嫉妬の言葉も詰まっていた。その後モニターを切ったカサンドラはウイスキーのボトルを手に取り、氷の入ったグラスに注いだ。
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