ゲルマンルーレット

赤目のサン

此処はドイツだ。是非ドイツ式で行うべきとは思わないのかね?

 「縄を解かれた気分は如何かね?

―――いや、答えなくて構わん。…不快だ。」

眼前で、その様に皮肉っぽく語った人物。

彼の首元には、親衛隊員の証である、血液型のタトゥーが彫られていた。

「今、この帝国ライヒは終焉を迎えようとしている。貴様イワンスキーによってな。」

この時、我らが・・・ソ連の地上軍は、少なくともドイツ領内に迫っていた。

 「知っての通り、私は親衛隊員だ。」

先程まで羽織っていたジャケットには、親衛隊の襟章が縫い付けられていたし、先程言った、シャツの首元から見えているタトゥーは、輸血時に血液型が直ぐに判る様に、親衛隊独自で、隊員へ彫らせていたものだ。

 「あの大戦争WW1の時、…敗戦濃厚のイワンスキー共は、面白いゲームに挑んだ。」

彼は、脱いだホルスターベルトから、一丁の銃を引き抜く。

「今、汝は死ぬべきか。」

彼は左手に持っていた巾着袋を探った。

「今、我は生きるべきか。」

出てきたのは、銃弾。

「運試しの様なものと、思ってくれ給え。」

右手に持っていた銃から、弾倉を引き抜き、続いて上部手前のスライドを引く。

今、この銃の残弾はゼロだ。

 「…ルガー=ピストローレ23年モデル。装弾数は8発。此奴こいつでロシアンルーレットをかまそう。」

ルガーはセミオート拳銃。

普通、ロシアンルーレットはリボルバーで行うものだ。…馬鹿げている。

「馬鹿げていると思うだろう…。

セミオート銃はリボルバーと違って、シリンダーを回転させれない。順序と言う秩序の通りに発射される。弾を込めた者には、チャンバーに装填された弾が、空包か否かを判別出来てしまう。


 だが若者よ。それで構わんのだ。

之は心理戦である故な。」


「ドイツ人は秩序を重んじる。そして此処はドイツだ。是非ドイツ式で行うべきとは思わないのかね?」

彼は、机上に弾薬を並べ始めた。

「空包は火薬と雷管を抜いてある。持ってみればよく分かるだろう。」

しかし、銃弾の一つを、手に持とうとすると。

「―――待て、装填するのは私だ。」

…全くもって意図が理解出来ない。

自殺を仄めかす様な前置きは、一体何だったのか。

ナチス親衛隊員は殺される。我らの同志達に行って来た、仕打ちと同じ様に。

それを踏まえての「私は親衛隊員だ」では無かったのか――?


「…後ろを向き給え。」

「嫌だと言ったら?」

「ナイフで刺せば宜しい。そして緩やかな死を迎えるのだ。分かるかね。」


背もたれの無い椅子で、私は体を後ろへ向けた。


カチッ…カチッ…と、給弾の音が聞こえる。




カチッ




カチッ




カチッ




カチッ




カチッ




カチャッ…カチャッ…カチャッ…




カチッ…カチャッ







「…では、こちらを向き給え。」


ロシアンルーレット…いや、ゲルマンルーレット


…スタートだ。





続く。

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