カレーになったじゃがいも

Tomoパパ

第1話 地中から出たじゃがいも。

そこは深い闇の中、ただ聞こえてくるのは、ミミズが動いているような微かな音。


雨の日は、嬉しいが、量が多すぎると、腐ってしまう。太陽がガンガンに照りつけても、この闇の温度は変わらない。

時々、上から地響きがする時がある。ドシン、ドシン、その時は、さすがにミミズもビビってる。


俺は何があろうと動じない。兄弟の分まで、栄養を頂いているから、他とは比にならいほど大きいのだ。

根っこからの情報によると俺達は、もうすぐ地上に出るらしい。


地上は、どんなところだろうか、根っこに尋ねても知らないらしい。出てからの楽しみだと言う。

茎や葉っぱから、情報を提供してもらえと伝えているが、音沙汰がないらしい。


本当にどいつもこいつも使えない奴らだ。


ドシン、ドシン、と大きな音が地面をこだまする。賑やかな声も聞こえてくる。外はどうなってる?


根っこが「もうすぐ、もうすぐ」と言っている。


「早く出たいんだ、俺は! 俺には、この空間が狭すぎるんだ!」と言った時、鋭いスコップの側面が地面から突き抜けた。体ギリギリのところで何回も突き抜けてくる。


ようやくおさまると外の音が聞こえる。人間の子供の声にしっかりした大人の声が聞こえたかと思うと、茎と根の部分が悲鳴を上げているのが俺に伝わった。


いよいよ、外の世界か、そう思うとワクワクした。

この日のために養った体を遺憾なく発揮できるからだ。

ブチブチと茎と根っこの声が消えて俺たちは、空高く舞い上がった。


俺は「外に出たー!」と兄弟達も笑顔だ。いい天気で空は青く空気もいい。幼稚園児達が俺達兄弟を見ながら、真っ先に俺を一番高く持ち上げた。そして、何十人もの幼児が俺を見上げて声を上げている。


俺様は、一番大きい、人間から見ても俺様の凄さが分かるんだと確信した。


見下げると兄弟達は、地面に置かれてほったらかしだ。


他の奴らも地面に置かれている。その中には、まあまあデカイやつもいるが、俺様ほどではない。


俺は、担任に手渡されて、体育座りしている幼稚園児達の前で更に高々く上げられて、こんなに大きなじゃがいもを見たのは、初めてですと言っているのだろう。俺様に、子供達も拍手した。


下で転がってる兄弟には悪いが、天と地との差だ。


俺は、そのまま高い台の上に乗せられて、下界を見ていた。下の奴らは、放り投げられながら、荷台に乗せられている。

下にいる奴らが全員乗ったあとに、幼稚園児がかけより、まるで特別だよ。と言わんばかりに、俺様の体を両手で包み込み、丁寧に荷台に乗せてくれた。


荷台では、俺の下にうずくまる兄弟がクッションの役割になっている。小さな体で大きな俺の体を支えているなんて滑稽なことだ。そう思っているとやや大きめの奴が俺に話しかけてきた。


「なぁ、あんた、あまりチヤホヤされるもんじゃないぜ」とヤキモチをやいてきたので揺れる荷台の上で上手く転がりそいつに体当たりしてやった。そいつはバランスを崩し「後悔するぞ」言わんばかりに俺を見ながら荷台の端から転げ落ちた。そのあげく、勢いよく回る荷台の車輪にはさみ込まれて、車輪が止まる。


それに気付いた人間が、はさみ込まれた奴を拾い上げた。おぞましい。皮膚であろう皮が引き裂かれ、肉であろう身の部分が、形を変えて削りとられていた。さっきまで喋っていた奴の口は横に移動し体液が滲み出している。


それを見ていた下の兄弟が震えているのを感じた。俺は、言ってやった。「お前たちは、ああいうふうにはしない。ただ俺様を怒らせると知らないぞ」と大声で、荷台の奴ら全員に聞こえるように言ってやった。


人間は、ぐちゅっとなった奴を見るなりもう使えないと言ってるような振る舞いで、片手で奴を持ち、草むらめがけて投げ捨てた。空中で奴の体は半分に引き裂かれ血であろう体液が太陽の光に照らされているのが見えた。


「生意気なやつは全員こうなる運命だ」俺はさっきの言葉につけ加え全員を罵った。

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