第45話 村松家の危機
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ある日、村松家に悲鳴が響き渡る。
その悲鳴がしたのは洗面所だった。
「ちょっと!?大丈夫!?どうかしたの!?」
「体重が……太ってた……」
そう言って俺は驚いてやってきた美優のほうを見てがっくりと膝をつくのだった。
◇◆◇
「健康診断が近いから試しに体重計に乗ってみたら太ってたってこと?」
「うん……」
俺はダイニングの椅子に座り美優に何があったのか報告していた。
久しく乗ってなかったからたまには計ってみようかと気楽に乗ってしまったのが運のつきだった。
まさかあんなにも増えていたとは……
「太ったっていってもどれくらい増えたの?」
「今まで見たことないくらい……」
「うーん、今までの拓哉はちょっと痩せ気味だったからなぁ……。でも拓哉がそんなにも気にするってことは標準体重よりも太ったってこと?」
「うん……これは完全に幸せ太りだな……美優のご飯が美味しすぎてついつい食べすぎたり、食後によく和菓子食べてたし、つい最近は旅行にも行ったもんな……」
幸せすぎて体重のことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。
飲酒の量は減ったけどその分ご飯やらお菓子やらを食べまくったからプラスマイナスでプラスの方へと行ってしまったわけだ。
「このままじゃどんどん太っていく……」
「私はどれだけ太っても拓哉のことが大好きだよ」
「そのフォローは嬉しいけど絶妙に嬉しくない!」
そんなことを言われてしまえば俺はどこまでも甘えて自堕落になってしまう。
そんなのは絶対に嫌だった。
「大体美優は太った俺より適度な体型の俺のほうが好きでしょ?」
「それは……まぁ……」
「じゃあ俺は痩せないと。俺は美優の理想であり続けたいから」
結婚したからといってそれはゴールじゃない。
残りの人生のほうが長いんだし交際期間がめちゃくちゃ少なかった俺達にとっては特にそうだ。
それに俺は美優に見限られないように頑張るって決めたのだからそこはちゃんとしなければならない。
痩せると言ったら痩せる。
「でも美優は本当に昔から食べてもあまり太らないよね。今だって俺と同じような食生活してるはずなのに見た目全然変わらないし」
「う……それは……」
俺が何気なくそう言うと美優はギクリと顔を背けた。
え?どういうこと?
俺なんかまずいこといった。
「あ、もしかして美優も……」
「太ってない!見た目は変わってないからまだセーフだもん!」
「そ、そっか……」
でもそれって数字は増えたってことなんじゃ……
いや、言うのはやめておこう。
本人思ったよりも気にしてるみたいだし。
「まあ美優は元が細いからね。そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「体重を気にしなくなったら女性として負けなの……そんなことで好きな人に愛想尽かされたら全然笑えないよ……」
「俺だって美優が太ろうが痩せようが大好きだよ。まあどっちかに偏りすぎず健康に過ごしてほしいとは思うけど」
「でも拓哉だって太ってる私よりも今まで通りの私のほうが好きでしょ?」
「………」
「ほら!」
だって仕方ないじゃないですか。
数ヶ月前に再会したときからの美優は顔も性格もスタイルも好みど真ん中なんだもの。
好きなことには変わりないがどっちのほうが好き?と聞かれてしまえば今まで通りの美優と素直に言わざるをえないだろう。
「これは思ったよりもピンチだよ……」
「ああ。想像以上にやられていた……」
「今度からダイエット食考えてみようかな……それとも食事制限とか?」
「それだけは勘弁してください。俺から生きがいを取り上げないでください」
「え、えっと……そんなに?」
「そんなに」
今更美優の料理を制限するとか考えられない。
もし取り上げられようものなら美優を1日20時間ぐらい抱きしめていないと元気が出ない。
美優の料理があるからこそ平日は数時間のイチャイチャと土日の1日中イチャイチャで我慢できているのだ。
「じゃあどうしようか……」
「やっぱり運動しようかな。健康にも良さそうだしダイエットするのにもちょうどいいかも」
「それじゃあ私も拓哉と一緒に運動しようかな」
「え?でも巻き込んじゃうのは申し訳ないし無理しなくてもいいんだよ?」
俺のせいで美優を運動に巻き込んでしまうのは申し訳ない。
俺の我儘でダイエット食を断ったのだから。
「いいの。私の仕事って家から出ることほとんど無いし買い物とかだけだと不健康だからいつかは運動しなくちゃって考えてたの。それに……」
「それに?」
「拓哉と一緒ならどんなことも楽しいし良い思い出にもなるでしょ?だから一緒にやりたいの」
「美優……」
なんと嬉しい言葉だろうか。
俺は感極まって美優を抱きしめると美優はくすぐったそうに笑う。
「それじゃあ一緒に頑張ろう」
「うん」
「「村松家のダイエット計画開始!」」
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