第30話 私の全部、拓哉にあげる
「いやぁ……まさか自分がこっち側の人間になるとはな……」
俺は今、風呂に先に入って美優を待っている。
今まで物語の中でしか見たことがなく別世界の話だったような混浴を今まさに自分がしようとしているのだ。
未来というのはわからないものである。
「き、緊張するな……」
まだ美優はいないというのに緊張で心臓がバクバク言っている。
この調子じゃ美優が来たら心臓が持たないかもしれない。
「お、おまたせ……」
「いや、待ってな──」
後ろを振り返ると言葉を失った。
湯浴み着姿の美優はすらりと伸びる足が艶かしく胸だって谷間まで見えている。
俺が今まで見た中で最も露出してるであろう。
かくいう俺も湯浴み着を着ているが特に水着と変わらない。
「裸じゃないけどなんか緊張するね……」
「そうだな。湯浴み着を借りていてよかったかも……」
俺達が湯浴み着を着ている理由。
それはお互い初めて裸を見るのは行為をするときにしよう、と美優と決めたからだ。
だから今回は湯浴み着を着ているが次回からは着ないだろう。
明日もぜひ入りたいところだ。
「ふぅ……あったかいね……」
「ああ。それにいい景色だな」
美優は俺の隣に腰を下ろす。
肌が触れ合うかギリギリの距離だ。
いい景色だなとか言いつつ全く頭に情景が入ってこないのはなぜだろうか。
「ねえ拓哉……今日すっごく楽しかった……」
「まだ一日目だよ。まだまだ楽しめるさ」
「うん……」
美優が俺の肩にもたれかかってきた。
スベスベとした肌の感触が伝わって心臓が跳ねる。
美優の肌が眩しすぎて直視できない。
「もっとこっち見てよ……そんなに目を背けられると少し寂しい……」
寂しそうな声を出され俺は覚悟を決めて美優を見る。
さっきも見たはずなのにお湯で肌が上気し先ほどとは比べ物にならない色気を放っていた。
「ふふ、ドキドキしてる?」
「そりゃあな……これで平静を保つのは難しい」
「私だってドキドキしてるよ。体ががっしりしてて男の人って感じがする」
俺達が最後に一緒に風呂に入ったのなんて幼稚園くらいのものだろう。
そこから俺達はそれぞれ完全に男性、女性の体つきに変化した。
関係性だって昔はただ仲が良い幼馴染だったのに今では夫婦だ。
お互いがお互いの体を見るのが新鮮でありドキドキしている。
「少し触ってもいいかな……?」
「あ、ああ。そんなに鍛えられてるわけじゃないけどそれでもいいなら」
「そ、それじゃあ失礼します」
美優がペタペタと触り始める。
恐る恐る、といった感じだがそれでも手は止めない。
やっぱり筋肉があったほうがいいのかな……?
少し鍛えてみようかな。
「やっぱりがっしりしてる。女の子と全然違うんだね」
「あはは、そうかもな」
「それじゃあ今度は拓哉の番。好きに触っていいよ……?」
そう言って美優は俺から離れる。
さ、触っていいって言われてもどこを触れば……!?
今の美優はこれ以上ないほど無防備だ。
もちろん触れたい気持ちはある。
だけど触ったあと自分を抑えられる気がしなかった。
「拓哉が触りたいところを触っていいよ……もう私達は夫婦だし、拓哉なら嫌じゃないから……」
そう言われて俺の視線は美優の胸に吸い寄せられる。
今まで服越しでしか見てこなかったその場所。
ハグをしたり腕を組んだときに感じる柔らかさと弾力がつまった母性の象徴の魔力に引き寄せられる。
そして俺は───
「おお……柔らかい……」
美優の二の腕をつついていた。
二の腕の柔らかさは胸の柔らかさと同じというのを聞いた事がある。
今直接触ってしまったらせっかく整えてきたムードをすっ飛ばしこの場で美優を押し倒しかねない。
「もう……!なんでそこで二の腕なの?」
「もうこれ以上は自分を抑えられる気がしなかったんだよ……」
「……じゃあ今回は許してあげる。そのかわり……」
「そのかわり……?」
「お風呂上がって、するときはちゃんと触ってよ……?私の全部、拓哉にあげるから……」
耳元で美優に囁かれゾクッとする。
もう俺のムスコが臨戦体勢になりかけていた。
しかも美優にバレている。
「約束だよ……?」
「あ、ああ……!約束だ」
「それじゃあもう上がろう。もう拓哉も準備出来てるみたいだし」
そう言って美優はキスをして風呂から上がった。
俺は心を鎮めようとしたが失敗し心臓がバクバクと鼓動を打ったまま風呂を上がった。
今日……俺達は一歩先へ進むんだ……!
──────────────────────
今回は初夜前なので控えめなお風呂回。
次に混浴するとき二人はどんなことをするのやら……
次回はいよいよ初夜編……!
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