第23話 なおさら美味しい

「お昼はどこに食べに行くの?」


「それはまだ決めてないんだ。食事はその日の気分もあるし今日は一緒に決めようかなと思って」


「そっか。じゃあ調べよ?」


俺がスマホを取り出すと美優が横から覗き込んできた。

ふわっと優しい降水の匂いがしてきた。

これは柑橘系の香りかな?


「近くで拓哉の好きそうなのは……カツ丼とかカレーかな?」


「どこでも食えるチェーン店でいいのか?」


「安いし美味しいから私は気にしないよ」


俺は呆れて苦笑する。

美優はチェーン店のもの結構気に入ってるんだよな。

でもそういう美優だからこそ財布の紐がしっかりと締まりそうだ。

共働きだし老後は安泰かな。


「あはは!そうか、じゃあカレーに行こうか。美優も好きだろ?」


「やった。カレー楽しみ……!」


美優は目を輝かせた。

俺は早速エンジンをかけ近くのカレーチェーンへと車を走らせた。

車で5分ほど進み車を停め店内に進む。


「最近少しずつ暖かくなってきたから店内は少し涼しいね」


「そうだな」


今は4月の下旬ほど。

もう冬は終わり暖かい日も増えてきた。

流石にエアコンは使ってないが室内に入ることで日光が遮られそれだけで少し涼しく感じる。


「はい、これメニュー表」


「ありがと。どれにしようかなぁ……」


俺は割と色んなことに悩んで決めるタイプ。

せっかくだからと食べたいものがたくさんあって迷ってしまう。

悩みに悩みようやく自分の食べたいものが決まった。


「決まった?それじゃあ店員さん呼んじゃうね。すみません、ちょっとよろしいですか?」


「はい。ご注文でしょうか?」


「はい。私は野菜たっぷりカレーの1辛でお願いします」


美優は辛いのがあまり好きではないので1辛にするようだ。

俺もメニュー表を指差して店員さんに見せる。


「俺はこのオムカレーの5辛でお願いします」


「野菜カレーの1辛がお一つとオムカレーの5辛がお一つですね。かしこまりました」


店員さんは俺達の注文を復唱して店の奥へと消えていった。

ここのカレーは久しぶりだから楽しみだ。

俺たちはしばらく雑談を楽しんでいるとカレーが運ばれてきた。


「「いただきます」」


一番美味しいであろう卵とカレーを多めにすくって口にいれる。

卵の優しい甘みとカレーの辛さがたまらない。

初めて頼んだけど中々正解の選択だと思う。


「野菜がしっかりと煮込まれてておいしい……私もこのくらい美味しいカレーが作れたらなぁ……」


「店のカレーは一気にたくさん作ってるから美味いんじゃない?それに美優のカレーは間違いなく美味い」


「ふふ、ありがとう。でもお鍋の大きさの問題だけじゃない気がするんだよね……」


美優は真剣に、でも美味しそうにカレーを食べている。

美優の料理は家庭的な味だからまた別ジャンルな気がするけどな。

毎日食べるならお店よりも食べてホッとする美優の料理のほうが比べるまでもなく圧倒的に好きだ。


「拓哉それ美味しい?辛くないの?」


「この辛さと卵のまろやかさが美味しいんだよ」


「なるほどね」


俺の説明を聞いて美優はなにやら考え込む素振りを見せる。

そして一つ頷いてこちらを見た。


「一口貰ってもいいかな?拓哉が好きな味食べてみたくて……」


「いいよ。はいあーん」


「えっ……?」


どうやらあーんではなかったらしい。

ただ単に一口食べたかっただけのようだ。

しかし一度あーんしようとして諦めて手を下げるのは何か嫌だったのでそのままキープしてみる。


「あーんは嫌?」


「い、嫌じゃないけど外では恥ずかしいというか……」


「えーじゃああーんしたいな」


俺の言葉に美優は少し顔を赤くし小さく頷いた。

作戦成功だな。


「はいあーん」


「あ、あーん……あ、本当だ。卵がまろやかで美味しい……」


どうやらお気に召したようだ。

美味しそうに目尻を少し下げて咀嚼している。

そして自分の野菜カレーをスプーンですくいこちらに差し出してきた。


「お、お返しね。あーん」


「俺も食べればいいの?」


「う、うん……」


すると食べようとしたときに恥ずかしさがこみ上げてきた。

今になって美優の気持ちが分かってしまった。


「やっぱり少し恥ずかしいな……」


「私にやったんだから逃げるのはなしだよ?」


「うっ……」


そう言われてしまうと弱い。

俺は覚悟を決めていただくことにした。


「あ、あーん」


「はいあーん。どう?美味しい?」


口の中には野菜のうまみと甘みが広がった。

健康に良さそうだし次回はこれを頼むのもありかもしれない。


「美味しいよ。美優が食べさせてくれたからなおさら美味しい」


「も、もう……!」


それから俺達はずっと食べさせ合いっこをした。

多分胃袋に収まっているカレーの半分くらいは野菜カレーだと思う。

最終的には美優も恥ずかしさが薄まったのか積極的にあーんしてくれたし。

もちろん俺もしまくったけどな。


俺達は精神的にも胃袋的にも満足し店を出た。

次はどこに行こうかな。



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@hyuukun8 様


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そして☆600ありがとうございます!

向上心を忘れずにということで次の目標は700です!笑


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