第二羽、ザ・埋蔵金発掘チーム

 うむっ。

 亜歩学園一年B組埋蔵金発掘チームのメンバーをば。

 まずリーダー。吉川英輝。もはや説明の必要がないと思われる。詳しくは割愛。次にサブリーダーであるB組きってのコメディアン、村井章二。こちらも説明は不要。というか、章二を誰かに紹介するなんて、色んな意味で〔良い意味、悪い意味、併せてだ〕無駄というか、無意味で不毛だから全力で割愛でござる。

 忍忍ッ!

 うむっ。

 そして。

 栄えある三人目は、……えっ? 一体、なにが栄えあるなのかって?

 まあまあ、とりあえずは、ご静聴願えれば、と思う。

 兎に角。そんな三人目に控えますはカネなら任せろなお坊ちゃま。謙一〔けんいち〕だ。謙一は姓を轟〔とどろき〕と言い、親が中堅ゼネコン会社の会長を務める、この地方での有力者の息子。ただ、性格に難があり、暗殺・暗躍・暗算がトレードマークな根暗人。自分の利の為ならば人を裏切るなんて、へっちゃらな腹黒王子様だ。

 ただし、

 謙一は、発掘費用の負担は全面的に俺に任せろと言った。なにゆえと思うけど。まあ、そんな訳で栄えあるにしておかないと、後々、面倒くさいからそうする。しかし。そんな謙一が、ものっそ博打な埋蔵金に興味を惹かれた理由も今のところ不明。

 めっちゃ背中に冷たい氷が入れられたような気分にもなるが、発掘費用という高校生には無理難題をクリアさせてくれる御仁には逆らえない。やっぱり世の中、カネですわ、なんて越後屋と悪代官のどちらかに為らねばならぬ時もあるのかもネ。

 お主も悪よのうなんて。えへ。

 兎に角。

 そして、

 四人目は発掘チームの紅一点。チームの良心でもある長縄蜜柑。まあ、自分でチームの良心なんて言っている時点で推して量るべし。ただし、それでも、この濃いメンバーを支えられる、纏められる人間は、英輝か、私しかいないんだよね。ただし、英輝は章二と仲が悪いから、そこで私の出番というわけだ。

 うむっ!

 そして、最後の五人目は、やっぱり、この人を忘れちゃダメだよね。言い出しっぺというか、今回を引き起こした張本人。つまり地蔵だ。サイレントマンなんて二つ名をあげたいくらいにしゃべらない無敵の菩薩さま。今もニコニコと笑いながら皆を眺めている。その笑顔を見ていると背後に後光が射しているような、そんな気にもなってくる。何処かに飛び去った、あのルリビタキ君も、いつの間にか帰ってきて地蔵が差し出した右人差し指に止まっている。

 カカッ。

 ふふふ。

 いやいや、もやは菩薩で間違いない。少なくとも仏陀くらいの雰囲気はあるぞ。てか、小鳥と話せるんですか? なんて間の抜けた質問もしたいが、きゃっつ〔地蔵〕は人間とはしゃべらないのであります。だから小鳥ともしゃべっているわけじゃない。いや? 勘ぐってみればテレパシーのようなもので……、などとて言ってしまえば……。

「2025年は厄災の年なんだ。その前触れなんだよ」

 なんて、いまだに言ってたオカルト好きなO君の鼻の穴が膨らみ超新星爆発だ。まあ、そのO君は、黙れと言った章二に小突かれて恨めしそうに笑ってたけど。アハハ。

 兎に角。

 以上、五人が亜歩学園一年B組の精鋭〔?〕を集めた〔いや、寄せ集めた〕埋蔵金発掘チームの構成員だ。無論、教室に残ったO君を始めB組の皆は後方より我らを支援してくれる頼もしきサポータとなる。うむっ。では、いざゆかん発掘へ。

 ゆけゆけ、湯気とふけをぶちまけ。うむっ。我ながら章二レベルだな、と思う。

 そして舞台は鍋敷き山に移る。




「てか。まだかよ? 埋蔵金。カネは、まだなのか?」

 いきなりヘタレまくっている章二。まあ、デフォだ。

 てか、まだ鍋敷き山に着いて二分だから。二分。カップラーメンも出来んぞ。どんだけ面倒くさがりなわけ。ふらふらと足取りがおぼつかない章二の背を押す英輝も苦笑い。しかしながら意外としっかりと歩く謙一は何を考えているのか? それも恐い。それこそ章二以上にカネに聡い謙一が面倒くさがらないからこそ。

 ククク。

 それこそ、お笑いだ。

 なんて悪役が放ちそうな、くぐもった嗤い声をあげているのが余計に怪しいぞ。

 わざと?

 ハー、ハハハッ! なんて高笑いが続きそうで恐い。

「章二。君は、いつもそうだ。始めのイキオイには目を見張るものがある。それは、この僕も感心している。……が、直ぐに不平不満に代わる。それは悪い癖だ」

 と英輝がふうふうと苦しそうに息を吐き章二に言う。

 それでもさ。背中を押すんだよ。英輝って。

 うむっ!

 そんなこんなで整備された山中の道〔……後で知ったが、この道は東海自然歩道という名で現代版東海道五十三次とも言われているらしい。まあ、ネット情報の浅い知識なんだけども〕を五人はワイワイと騒ぎながら山の奥へと入っていった。

 うむっ!

 そうそう。その鍋敷き山は、東海の大都市〔と書いて永遠の田舎と読む〕である名護市のベッドタウンで私達が住む小春市の山岳地帯に存在する裏山的なもの。標高は100m前後の小ぶりな山。ただ、琥珀蘭という珍しい花が咲く山だ。まあ、花には興味がない私にはサッパリなんだけど、休日には、その希少な蘭を求めて写真家達が、こぞって登山を試みる山らしい。

 真面目に知らんけど。うむっ。

「疲れたベ。もっと気合い入れて押せよ。おでき。役に立たねぇな。マジでよ?」

 と悪態の章二。英輝は苦笑い。

「てか、章二、あんた、少し真面目にやりなさい。英輝の苦労、分かってるの?」

 と如何ともしがたい気持ちに後押しされた私が言う。

「まあまあ、そういうキャラだから。俺様は。……ミカンも分かってんだろう?」

 うっさい。ミカンゆうな。あんたに言われたくない。

 阿呆が。

「ククク」

 うおっ。

 私達が余計な会話をしていると、またまた嗤う謙一。

「それこそ、お笑いだ。埋蔵金を手に入れれば一生遊んで暮らせるんだ。今、疲れたからとヘタレるのは将来〔さき〕が見えてない証拠だ。実に愚か。愚かなり」

 うおっ。

 一生遊んで暮らせるって、ある意味で本音臭い発言。やはり裏切るつもりなの?

 独り占めコース一直線なのッ?

 謙一君。ねぇねぇ。ねぇてば。

 この発掘の為、新調してくれた緑の作業着〔ジャージ〕も、発掘用の新品のシャベルも、何か在ったら危険だからと緊急用と持たせてくれた非常食の無駄に高級なチョコレートも、全部、全部、私達に意気揚々と発掘をさせる為の罠だったの?

 ねぇってばよ。にんにんてか。

 てか、実に愚かなんて言い回しを使うのは、この世で謙一くらいだ。そう思う。カネが絡むと本当にヤバい奴になるよね。謙一は。大体、クラスのみんなは、あんたほど真剣じゃないと思うぞ。単に埋蔵金が在ったら在ったで面白いし、見つかれば、それはそれでラッキーくらいの感覚だろう。もちろん章二だってさ。無論、英輝に至ってはクラスの総意を尊重しただけ。端から信じてないし、今も、ある意味で嫌々だと思うけど。まあ、多分だけど。

 うむっ!

 肝心の私は、どうなのかなぁ?

 なんて雲が流れて太陽がにっこりと顔を出した冬空を眺めて考える。息を吐き。

 ううん?

 まあ、楽しければ何でもいいんじゃん? クラスのみんなも楽しんでるみたいな感じがするし。だからノリとイキオイで在るって信じてた方が幸せかな。なんとなく。まあ、深く考えるより感覚で生きている私なりの答えだからさ。ご愛敬。

 うむっ!

 そんな物思いに耽った小っ恥ずかしい私の顔を、章二がめざとくも見つけ笑う。

「だべ? 面白そうって点では俺ッちと一致してるべ」

 章二、あんた、何人だ。だべ? も気になるが、俺ッちってなんなの。アハハ。

 てかさ。

 いつもの事だけど心を見透かしたような核心を突く言葉を吐くのも章二らしい。

 もちろん厭らしく聞こえないのも、また章二らしい。

 うむっ!

 そそ。学園に残ったクラスメート達は、埋蔵金についての民間伝承はないか、或いは、そういった埋蔵金などを隠しそうな過去の有力者の話はないかという情報収集や埋蔵金情報が外に漏れないよう隠蔽工作などの雑務をこなしてくれている。なにか分かれば直ぐにラインで連絡がある手はずだ。

 うむっ。

 というか、本当に我がクラスながら思う。感心する。

 こういう面白い話が入って来た時に魅せる、ノリとイキオイでの団結力は凄い。

 ……ってさ。

「てか、ミカン。俺、もう疲れた。眠いし。こんな山の中を歩くのは性に合わん」

 おおい!

 団結力に感心した途端、一番の乗り気だった章二がヘタレの極に達しやがった。南極だけでも北極だけでもなく同時に南北の極に到達した証、飽きたフラッグを立てやがった。メロディー・フラッグの奏でが天高くから降ってきて冬空を突き抜け、両耳に一直線だ。この野郎。アイアンクローしてもいい? アイアン。

「俺の気持ちは俺様の物。お前の気持ちも俺様の物。なあ、ミカン。帰ろうぜ?」

 ミカンゆうな。あんたに言われたくない。てかジャイアンニズム? この野郎。やっぱアイアンクロー。アイアン。ジャイアンにね。つか、だから、まだ四分しか経ってないの。鍋敷き山に入ってさ。まあ、さっきからは二分経ったが。というかさ。ちょっと不思議に思った。なんで英輝はサブリーダーに章二を据えたんだろう。まだ謙一の方が、いや、私の方がって思う。

 おおっ!

 英輝は私の困った顔を見て私が考えてる事を読んだのか、章二がそうしたよう。いきなり真剣な顔でこんな事を言い出したんだから。

「章二。僕は期待しているんだ。僕と君とは水と油だ。そんな君をサブリーダーに据える事でワンマンにならないで済む。無論、君の能力も認めているからこそ」

 そうなんだよね。英輝って、実は、章二を認めてて、逆に章二もなんだけどさ。章二の方も素直じゃないから、今もケッとか悪態ついてて。でも嬉しそうな顔をしているのは隠せなくて。でも、そんな章二を見ても英輝は苦々しい顔するから。口では認めてるとか言っても素直に笑えないというか。ライバルってやつ?

 男子って本当に面倒くさいね。

「うっせいわ。阿呆が。俺は俺のやりたい様にやんのよ。埋蔵金? もう飽きた。肝心の地蔵はアレから、しゃべらねぇし。ねぇんじゃねぇの? そんなもん」

 と章二が大きな欠伸をすると真剣な顔で答える英輝。

「うん。そういう意見が貴重だ。僕はワンマンになりたくないからね」

「だから、うっせいわ。意見とかじゃねぇし。もう帰ろうぜって言っての。埋蔵金の話は、お終いだっつってんの。もしかして、おできの脳は、お猿の脳ですか?」

 いや、むしろ、お猿の脳は、あんたの方です。章二。

 飽きたってあんたが言うって感じがして仕方がない。

「ふむっ」

 一つ大きく息を吐いた英輝が天を仰いでから答える。


「君は、いつもそうだな。チームの和を乱す事に関しては天才的とも言える。そして、こう言うだろう。俺は自由だ。大空を流れる雲だ。雲の章二だとな。だろ?」

 章二は俺は自由だと言葉が口から出た途端、口を閉じて無理矢理言葉を止める。

「……バ、バカ。そんな中二臭い事、言うわけねぇだろ。こう見えてもクールなんだぜ? ハタチの大学生に間違われる事だってな。って、おい、聞いてんのか?」

「まあ、僕は、お猿の脳だからな。なにも聞こえんぞ」

 タハハ。まあ、これが章二と英輝と言われれば否定できないのがまた痛々しいんだけど。

「ククク。お笑いだ。コントか?」

 と、ここで腹黒謙一様の登場。

 満を持してね。来んな。面倒くさい話が余計に面倒くさくなるから。

「ハイリスクを取れば必ず大きなリターンが還ってくるなんて、あり得ない。経済は生き物。ハイリスクを取ってもリターンが小さい場合も在る。ない場合もな」

 いやいや、別に経済の話なんてしてないし。謙一、あんた、高校生でしょうが。

 それこそ、おっさんかよッ!?

「かと言って買わない宝くじは当たらない。つまり疲れたなどというつまらない理由で埋蔵金を放棄するのは早計だ。リスクをとれなければ儲けもないからな」

「というかですね。謙一さん。章二こと俺様はノーリスクでハイリターンをお願いします。楽して大もうけがモットーの章二様ですから。お分かりでして?」

 ホホホ。

 なんて右手の甲を左の口の端にあてて章二は高笑う。

 なあ、ミカン。お前なら分かるだろ? 俺の気持ち。

 と言いたげな顔してアルカイックスマイルを送ってくる章二の野郎。だからミカン呼ぶな。あんたに片仮名でミカンと呼び捨てにされたくない。背中に悪寒が走る。もちろん、私は、章二を嫌いじゃない。けど、男としては、どうかなって思ってる。私の彼氏になるような男の子は、いや、止めておこう。今は、そんな話、どうでもいいし、面倒くさいから。

「つか、地蔵さんよ。なんか、しゃべれよ。あれから、ずっと、だんまりだべ? いい加減、飽きてきたんだよ。なんか新しい情報、プリーズ・ミィーだべしゃ」

 というか、章二、本当に、あんた、適当だよね。何人なわけさ。あんたってさ。

 うむっ!

 というか、ここまで私らが、ああでもない、こうでもないとワイワイやっているのを、矢田京介、つまり地蔵は微笑ましそうに見つめていた。慈愛に満ち満ちた目で。どれだけ騒ごうと静かに佇み見守っていた。そんな地蔵の口が開く。

 徐にも。

「そだね」

 と……。

 おおっ!

 と私、章二、英輝、謙一の口から一様に漏れる驚き。

「ゆみがとんでくるよ。もう少ししたら。驚かないで」

 息を飲んだ私ら四人の頭に地蔵が落とす特大級の分銅。キング・ザ・100t。あ、キング・ザ・100tって、何だって? お父さんが隠し持ってた漫画に描かれてた超人よ。超人。キン肉マンって題名の密かな推し漫画での超人。本当に面白いんだから。なんて話は、どうでも良い。果てしなく、どうでもいいッス。マジで。

 にしても、ゆみがとんでくるって……、どういう事?

「ふむっ。……僕が思うに弓が飛んでくると解釈してもいいだろう。多分だけどな。みんなは、どう思う? 弓が飛んでくるという解釈以外、なにかあるかい?」

 と英輝。

「そうだな。おでき。弓だな。弓。遂に埋蔵金を護る罠の発動ってところじゃねぇの。ケケケ。面白くなってきた。これで埋蔵金の話も信憑性が増したってもんだ」

 おおい!

 いやいや、さっきまでの飽きたモードから一転かよ?

 そのあり得ないほどの手のひら返しっぷりは、流石は章二だとしか言えなくて、むしろ安心だわよ。うむっだわよ。この適当魔人が。

「むむっ。弓か。一体、どこから飛んでくるんだ。そういった仕掛けを施すような場所は見当たらないが。でも念の為、注意して歩く事にしよう。慎重に行くぞ」

 と英輝が厳かに言って、章二が、身長に金鳥して歩くようになんて言っている。

 一応、突っ込んでおくけどさ。漢字を換えただけのギャグって会話では無力なのよ。普通に、慎重に緊張して歩くようにって聞こえてるぞ。今の。みんなには。まあ、私は、語り口で、吐いた言葉が、漢字か、平仮名か、或いは片仮名なのか、はニュアンスで、ある程度、分かるから、そのギャグも分かったけど。常人には通用しません。うむっ。トホホ。だわよ。

「ククク。……罠か。お笑いだ」

 嫌だ。もう嫌。嫌。マジ気に。

 謙一は謙一で相変わらず厭らしい笑みで、お決まりのお笑いだを言い出したし。

 てか、本当に、お笑いだ、が好きね。

 それこそ、お笑いだ、だわよ。

 しかし!

 この時の私達には、それこそ緊張感が足りなかった。そうなのだ。地蔵が平仮名で、ゆみがとんでくる、って言ったのには意味が在ったんだ。彼は、やっぱり神さまの生まれ変わりかもしれないとさえ思えるような事が、この後、起こる。


 ゆみがとんできたのだ。確かに私達の目の前へとだ。


 それは驚愕の事実を引き連れ。


 そして、また地蔵が小さく口を弓なりにして笑んだ。


 ふふふ。


 と……。

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