第80話 腐龍2

「車のレールガンだけど、怪物に焦点を合わすと距離が出るみたいだ……今、約3km。問題なく射程範囲に入っている。攻撃するぞ」


「(よっしゃ)」


『ドン!』


「(どや?)」


「駄目だな。表面で弾かれる」


「(とにかく、続けて攻撃やろ)」


「うん。連射!」『ドン!ドン!ドン!』



「(ワテのレンジに入ってきたで。ほなら、攻撃や)」『インフェルノ!』


「(どや?火魔法系の最上級魔法や……あかんな。魔法も物理攻撃もまるで効いとらん)」


「領主と同じで、表面の邪悪な結界が強固すぎるんだ。シスター、貴女だけが頼りです!」


「わかりました。そろそろ、攻撃準備を始めます」


 シスターは天に祈りを捧げ、詠唱を始めた。

 その間も、怪物から絶えず攻撃が襲ってくるが、

 車が揺さぶられるものの、

 究極防御は攻撃を無事防いでいる。


 怪物が距離2kmにまで接近した。



「セイクロッド・クロス!」


 領主戦で使用した神聖魔法だ。

 眩しい光が怪物を覆う。


「グオオオ!」


「おお、効いてるぞ!明らかに嫌がっている!」


「……駄目です……結界の破壊には至りませんでした……いまので私の魔力は枯渇しました……」


「駄目ですか」


「(領主どころの騒ぎやないな。クソっ、どないする?)」



『ティーナ』


 その時、天界から主神の声が届く。


「主神様!」


 3人はひざまずく。


『お前の祈りは儂に届いた。今のままでは奴を突破できん。儂のエネルギーをお前に送る。お前には新たな魔法が発現しておるはずじゃ。それで攻撃せよ』


「畏まりました!」


 すると、シスターの体が眩しく発光し始めた。

 再び、シスターは祈りに入り、詠唱をし始める。


「『コール・ゴッド!』」


 セイクリッド・クロスよりもさらに眩しい光が

 地上を覆った。


「グオオオオオ!」


 腐龍の激しい叫び声とともに、

 腐龍にまとった邪悪な波動が消滅していく。


「(やったで、シスター!)」


「はい」


 シスターは疲労困憊だ。


「シスター、今回ばかりはデ◯ーズのあまおうとピスタチオのツリーサンデーで体力を回復してください!」


「慎んで頂きますわ」


 シスターは嬉しそうだ。



「(アキラ、ほな全力でいくで!)」


「おう!」 


 それからは僕たちのターンだった。

 車のレールガンとラグの大魔法の乱れ打ち。


 ドラゴンは叫び声をあげながら、

 表面のただれたものがどんどんと剥がれていった。


 しかし、ドラゴンも大音響をあげながらも

 猛攻撃をしかけてくる。

 そのたびに車は激しく振動する。


 防御無効化時間は30分。

 あと残り僅かだ。



「あ、攻撃が止んだぞ?」


「(完全に沈黙したか?)」


 突然、ドラゴンは地面にうずくまったかと思うと、

 みるみるうちに大きさを縮めていった。


「「「え?」」」


 驚いたことに、そこに現れたのは、

 ドラゴンではなく人間の女性であった。

 衣服を身に付けずに地面に倒れている。



「どういうこと?」


「(ワテも混乱しとるが、とりあえず近寄って様子を見るか)」


 車で近くまで走っていくと、

 車のレーダーのレンジに入った。

 レーダーには緑色の点が点滅していた。

 倒れている女性に敵意がないということだ。

 

 僕たちは慎重に行方を見守りつつ、


「シスター、お願いできますか?」


「ええ!」


 丁度究極防御が時間切れとなった。

 猫結界に守られ外に出たシスター。

 警戒しながら女性をシーツにくるみ、

 魔猫たちの背中に乗せて車に運んできた。


「この女性、エルフですわ」


 特徴的なとんがった耳。

 顔色は真っ青だが、中性的な美貌の持ち主だ。


「(どういうこっちゃ?)」


「いや、それは僕が聞きたいよ。とりあえず、リポ◯タンDだな」


 やがて、エルフの女性の顔に紅が挿し始めた。


「目を覚ましたようですわ」


 目は焦点を結んでいないようであったが、

 徐々に目に力が増していった。



「……ここは?」


「何も心配することはありませんわ。どこか具合の悪いところはありますか?」


「いえ……ああ、村が!」


「落ち着いて。とにかく、何が貴女の身に起こっていたのか、説明できますか?」


 野草茶を与えて発言を待った。


 驚くことに女性はエルフの女王だという。


「黄泉の国の王と名乗るものが私どもの村に侵攻してきました。そして私に愛人になることを強要しましたが、私は跳ねのけました。そしたら、私はなにやら恐ろしいドラゴンの姿に……それ以降の記憶はおぼろげにしかありません」


「(さよか。では、村までいくか?)」


「はい!お願いします!」


 村までは迷うことなくたどり着くことができた。

 何しろ、村まではほぼ荒れ地になっていた。

 ドラゴンゾンビが破壊しつくしていたのだ。



 村は半壊状態だった。

 村人が復旧活動に従事していた。


「みんな!」


 エルフの女王は車を降りると

 一目散に村に走っていった。


 ◇


「このたびは誠にありがとうございました。そして、大変なご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます」


「いや、貴女も被害者です。村のほうはどうなんですか?」


 エルフの女王が襲われたあと、

 村は半壊状態に陥った。

 エルフたちは地下にあるシェルターにこもり、

 被害をどうにか避けたあと、

 こうして村の復興を始めたという。


「黄泉からの者は私を愛人にするというだけが目的ではありませんでした」


「それは?」


「私どもエルフは森の清浄な環境を保つために祈りを捧げております。黄泉からの者はその祈りを妨害するつもりであったのです」


「つまり、森の清浄な環境を破壊しにかかったと?」


「そういうことです。黄泉からの者は森を不浄なものにして、その後森に侵攻するつもりであったようです」


「なるほど。黄泉からのものは清浄な環境が苦手ということでしょうか」


「だと思います」


「(ふむ。シスターの神聖魔法に絶大な効果がある理由やな)」


「彼らはどこから来たのかわかりますか?」


「おそらく、わかると思います。村の北、少し離れたところに空間の不安定な場所があります。そこが出入り口ではないかと」


「おお、それは凄い情報だ」


「(主神さんも、黄泉の場所がわからんゆーてたからな)」


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