第44話 ドワーフ 酒の販売2
「(でな、販売先としては冒険者ギルドと商人ギルドを巻き込むつもりや)」
「おお、それは間違いなく乗ってくるな。特に冒険者ギルドの奴らしょっちゅう怪我まるけなのに、回復薬の値段は高い。年中、不平不満の嵐じゃからの」
「(ま、どっちにしろイザコザはおこるけどな。薬師ギルドの食い扶持が潰されるんや。全面紛争もありうるな。それでも話に乗るか?)」
「正直、灰色の案件じゃがの。ワシらは鍛冶屋じゃ。怪我の多い職業じゃからの。湯水のように回復薬を使えるとあれば、ワシらの技術進化も深まるっていうもんじゃ」
「(その意気や。無理押ししてもな、回復薬を欲しがっとるのはぎょーさんおる)」
「ああ、たしかに。ワシらもそうじゃが、回復薬買えんと泣いとる人おおいな」
「(そこに廉価の薬が販売されたら)」
「そりゃ凄い波がくるな。薬師ギルドも必死やが一般人も自分たちの命がかかっておる」
「(そんでな、どさくさ紛れにやな、くえんようになる薬師を取り込んでいくんや。なに、市場の裾野は広がるからな。広い目で見たら、薬師業界にも悪い話やないで)」
「それにしても、これはエライことだぞ。王国中の、いや大陸中のドワーフに激震が起こるぞ」
「ああ。大陸中のドワーフの長を呼びつけて、話をしなくてはなるまいて」
「そうだな。こんなの独占したら、どんな争いが起こるやら」
話が大げさになってきた。
「ああ、蒸留酒についてはみなさんの創意工夫におまかせするとして、一つだけ」
「なんじゃ?」
「酒を寝かす、って言いましたけど、大きな樽を使うとそれだけ寝かす時間がかかるんですよ」
「あー、そうかもしれんな」
「ほとんど熟成期間のない酒から、長いと7年、12年とか。35年とか50年とか100年とかもありえる話です」
「!」
「それも衝撃的な話じゃの。神に捧げる酒か?」
「モノ作りの厳しさは皆さんのほうがよくご存知でしょう」
「うーむ、身の引き締まる話じゃの」
「製品化にあたっては拙速を慎んで。消毒用アルコールは促成できますけど、飲用はじっくりと」
「うーむ、殺生やな。まあ、小さい樽ならはやいんじゃろ?あと、熟成のいらん蒸留酒もあるんじゃな?」
「ですね。消毒用アルコールって言ってますけど、清潔さに気をつけて水とかで割ってのめば大丈夫ですし、何かで香り付けすれば個性も出てきます」
「ふーむ。まあ、そのへんはドワーフごとで検討するとしてだ。消毒薬の話は急務じゃからの。命に関わるからな。まずは王国のドワーフに声を掛けよう。それから世界中のドワーフにも話をしたい」
「では、こうしましょう。酒の作り方は契約を結んでから。魔法契約書ですから、ノウハウはもれないでしょ?その後は皆さんご自由に』
「いいのか?見返りは?」
「正直、僕と森の守護さまには不要ですね。この件は公共の利益が最優先です」
カッコつけてるわけじゃない。
僕にはお金が不要なんだ。
だって、買うものが殆どない。
衣食住のうち衣類ぐらいだろうか。
お金が必要ならば、車のチート製品を売ればいい。
「おお、なんと無欲な人じゃ。もしかすると、神の化身か?」
「はは、大げさな。いずれは同様の契約を、他のドワーフの里の長とも結びましょう。そうすれば、供給不足は緩和できるかと」
「うむ。契約はドワーフの名にかけて」
ドワーフは一般的に契約にうるさい。
地球でいうPL、製造者責任に敏感なんだ。
トラブルの元だからね。
だから、ドワーフの弁護士も多い。
「じゃあ、契約の取りまとめはドレインさんに委任しますね」
僕たちはドワーフと詳細な契約を結んだ。
この契約には一ヶ月以上が費やされた。
契約書は魔法誓約書に書き込まれた。
契約書は山のように積まれている。
羊皮なので1枚が分厚いにせよ、相当な枚数だ。
◇
ドワーフの世界では、この日を記念日に制定した。
そして、ドワーフの発展に貢献したラグと僕を
名誉ドワーフ村民として称え、
以後ドワーフは僕たちに無限の力添えを約束した。
この地に作られた蒸留所はドワーフの聖地となり、
世界中から聖地巡りが行われることになった。
そこには伝説の酒が眠っているとされる。
100年熟成を目的とする酒があるのだ。
早くも予約の争奪戦が巻きおこっている。
ドワーフの寿命は300年とも言われ、
決して幻の酒とはならないのだ。
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