第42話 教会での薬販売
「問題はだ。どうやってこの薬をさばくかってことだな」
第2ギルド長はため息とともにそうこぼした。
この薬。
簡単にさばくことは難しい。
薬利権に群がる人が大勢いるんだ。
しかも、王国中に。
そういう中で価格破壊を行おうなんて言うのは
とんだ命知らずになってしまう。
「そこでだ、私は薬の販売を清貧教会にやっていただくというのはどうだろうか。いや、治療に薬を使うのだ」
「なるほど。もともと教会の仕事の一つは病気や怪我の治療だもんな」
「教会には治外法権があるし、薬師ギルドの縄張りは通用しにくいからね」
「それでもなあ、あの薬師ギルドだぜ」
「じゃあさ、森の守護様の奇跡とでも宣伝したらどう?」
「おお、ダメ押しっぽくていいな。森の守護様の奇跡ならば薬師ギルドがどうこう言えるはずもない。奇跡なんだからな。薬じゃない」
ラグへは不思議なリスペクトが王国民にはある。
どうやら、ラグは度々街の危機を救ってきた過去があるらしい。
そんなラグの奇跡に対して薬師ギルドが文句をいおうものなら、みんなの怒りが沸騰する。
と、第2ギルド長は考えた。
販売するのは、
森の守護様の奇跡 初級 100p
中級 1000p
上級 10000p
それぞれ、
初級回復薬 1000p
中級回復薬 10万p
上級回復薬 100万p
と同等製品である。
それに、製品を販売するわけではない。
治療時に使用するのだ。
セリア街清貧教会の回復士たちは
初級回復薬程度のスキルしか持ち合わせていない。
だから、名目上かなりのスキルアップになる。
販売するのは教会の教徒に限定している。
患者を
新たに教徒希望者が殺到するだろうけど、
教徒には毎日のボランティアを義務付けている。
道路の掃除とかね。
やんなくても罰則はないんだけど、バレたら破門。
そして、そういう人はすぐにわかるんだ。
教徒には腕輪が渡される。
ボランティアをすると、その腕輪に記録される。
そういうなんともチートなガジェットがある。
その腕輪を生産する器具が清貧教会にある。
なんの素材も必要とせず、
自動的にいくつでも腕輪が生産されるという。
そして、その器具は天から与えられたものという。
あくまで伝承だが。
個人にしても教会にしても、
約束を守らなくてもそれを公表したりはしない。
でも、教会が薬を売らなくなったりとか、
教徒であるのに、腕輪をしなくなったりとか、
彼らが何をしたのかは一目瞭然だ。
森の守護様ご謹製の薬について約束を破ったわけだから、かなりの非難を浴びることになる。
王国においてのラグへの信頼感は高いものがある。
さらに、清貧教会であつかう製品を増やした。
野草茶、リポ◯タンDだ。
通常の回復薬は主に傷に効果がある。
回復魔法も同様だ。
体の治癒能力・再生能力を高めて治していくため、
傷に対しては即効性が強いのに対して、
細菌・ウィルスによる病気は治癒に時間がかかる。
ましてや、ガンのような病気だと
回復魔法が病状を悪化させる場合もある。
野草茶は手軽に病気の初期症状を改善する。
風邪の頭痛、発熱などの症状には効果抜群だ。
ここが通常の薬師がまるで及ばない点なのだ。
薬師ギルドが野草茶のレシピを強引に求めてきたのもその点にある。
病気に明確な効果のある飲みもの。
しかも安価。
薬師には脅威でしかない。
湖畔村の野草茶販売は教会に譲ることにした。
危険だからだ。
セリア街の薬師ギルドがイキッている。
そして、それはセリア街だけではない。
王国中の薬師ギルドが関心を持つ案件なのだ。
湖畔村はあくまで野草茶の製造・卸に徹する。
薬師ギルドの多くは支配者と結びついている。
下手すると、王国全体を敵に回しかねない。
貧乏村の露店が対抗するレベルの話ではない。
勿論、地方都市の貧乏教会でも難しい話だ。
だから、ラグの権威を借りているし、
実際、僕たちが防衛を始めている。
そして、清貧教会の人は清貧教会のトップに
話を持ちかけているところだ。
問題の一つは、
他宗派教会の食い扶持を荒らす恐れがあることだ。
薬師ギルドの回復薬同様、教会回復魔法による治療費は高額なところが多い。
上級魔法の使い手は少ないが、中級魔法ならば
そこそこ使い手の数がいる。
それらからの圧は高いものがあるだろう。
どう交わしていくのか。
「(潰し立ったらええねん)」
ラグは二言目には脳筋な発現をする。
実際に、そういう話になるかもしれない。
地球での宗教改革も高額な免罪符を批判したことも原因の一つだと習った。
こちらの世界も金が大切なんだ。
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