第41話 第2薬師ギルド2
「ほお、こういう構造になっているわけですか」
ラグは見てきた内容を僕たちに伝えた。
それを元に僕がイラストを描き込む。
「聞けば、さほど複雑ではないですね。確かに伝え聞く通り、器具代はさほど高額ではなさそうですね」
「(あとな、なんのためかわからんが、こうグルグル高速で回転する機械を動かしてたで)」
ラグは簡単なイラストを描く。
お箸といい、ラグは器用なんだ。
「それ、遠心分離器じゃないかな」
僕はラグとスローンさんに説明する。
「はあ、物質を回転させることで、密度や質量の違いに基づいて分離させると。なんだか、とんでもない機械ですね」
精油の蒸留装置の出現は地球では約1千年前。
それに対して遠心分離機の実用化は19世紀だ。
地球レベルでも比較的最近のもののはずだ。
となると、この世界ではかなりのチートとなる。
「どなたか、鍛冶屋の知り合いはいませんか。口の固そうな」
「ああ、一人おります。彼なら大丈夫ですし、念のため魔法契約書を取り交わします」
「承知しました。あ、それならもう一つの蒸留装置も作ってもらったらどうでしょうか」
僕は酒の蒸留装置の原理を説明する。
「ほお、物質によって沸騰する温度が違うと。そしてその温度差で酒のアルコールだけを抽出すると」
「ええ。薬の蒸留とは若干原理が違いますし、それに合わせて形も変える必要がありますが、基本は似た形でしょう」
「酒、というのもいいですね。実は知り合いの鍛冶屋はドワーフなんですよ。ドワーフといえば、鍛冶職人であり、無類の酒好き」
精油を好むエルフといい、酒好きドワーフといい、
またもやファンタジーが飛び出してきた。
そのドワーフに会えると聞いて、僕のミーハー心が刺激される。
◇
「いいぜ、1週間もあれば試作品は完成するだろう」
鍛冶工房の工房長、ドワーフのドレインだ。
「そうか!で、いくらかかる?」
「いや、金はいらん。そのかわり、俺も酒造りに参加させろ。酒精の強い酒を作るだって?そんな話聞いて興奮しないドワーフはいねえぞ」
その言葉通り、目をギラつかせるドレイン。
ここで断ったらひと暴れしそうだ。
◇
1週間後、試作品を見に行く。
まずは酒の蒸留装置だ。
「へへ、エールで試してみたよ。すっごい強い酒になったぜ」
「ドレインさん、僕の曖昧な知識なんだけど、このまま薬草なんかで風味を加えたり、しばらく寝かすといいみたいだよ」
「ほお」
「長いと35年とか50年とか」
「なんだと!神様にでも捧げようってか!」
「それだけモノ作りは神聖だってことかな」
「いや、わかるぜ。素晴らしいな。俺もその情熱は見習わなくちゃな」
「ただね、樽に入れて寝かすんだけど、小さい樽だと数ヶ月もあれば結構熟成されるって聞いたぞ」
「おお、まずそれが先だな」
「あとさ、樽の木の材質とか変えてみたり、樽を焦がしてみるとか、いろんなフレーバーを酒に移すことができるぞ」
「おおお、ワクワクすっぞ!なあ、俺の工房の連中にも手伝わしたいから魔法契約書交わしてくれないか。それとな、この酒はドワーフ史上の偉業だ。ドワーフの族長にも話を通しておかんと大騒ぎになる。いや、話を通しても大騒ぎになるがな。だから、ドワーフ村に付き合ってくれんか」
「(ドワーフの族長なら、ドレックスやろ。古くからの知り合いや。いつでもええで)」
「うおっ、なんだ、声が頭の中に響くぞ」
以下はスローンと同じなので割愛。
「ふう。もう話が終わったような雰囲気だぜ」
「いやいや、こっからが本番なんだよ」
「へへ、わかってるって。ほんの冗談だよ」
「(これが中級・上級回復薬のレシピや)」
ラグは細かくレシピもチェックしてくれた。
「ふむ。確かに素材自体は特別珍しいものではないですな。超上級回復薬はどうだかわかりませんが」
「(ワテが訪れたときは超上級は作ってなかったしな。書籍もちらりと見たんやが、あかんわ。ワテには小難しくてな)」
「いや、上出来だって」
「そうですよ、守護様。感謝しすぎてもしすぎることはない位です」
スローンはラグからレシピを渡されていた。
それに基づき、機械を稼働させる。
「ふう、完成です。さて、きっちり効能があるかどうか。こればっかりは誰かに試さなくてはなりません。臨床につきあってくれる人をさがしますか」
「大丈夫なの?」
「この薬には特段の副作用はないはずですし、素材的にも問題ないでしょう。まずは自分が飲んで試しますが」
その後、検証を重ね、
第1薬師ギルドの薬と同等だと確認できた。
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