第31話 セリア街に入場した1

 田園風景の向こう側に大きな街が見えてきた。

 街というか、立派な外壁が見えてきた。

 街は背の高い外壁に囲まれている。

 高さはどの位あるのだろう。

 10mぐらいはありそうだ。


「壁はもっぱら、魔物を防ぐためと不法滞在者から守るためですね」


「人間同士の争いには役に立たないんですか?」


「ああ、攻城戦になったら白旗ですよ」


 ローリーさんは以下のように説明してくれた。

 人間同士の争いになると魔法が飛び交い

 すぐに城壁は壊されるし、

 城壁を飛び越えて魔法が飛んでくる。

 

 つまり、城壁が役に立たない。

 だから、守りは強固な結界魔法で行うのだそうだ。


 というか、戦争では攻城戦は最終決戦。

 防御側が相当不利の状態だ。

 防御側は攻城戦の前に野外戦で決着をつけたい。

 そこで白黒をつけて、負けても交渉に移る。


 目的が相手の命とか領土じゃない限り、

 戦争はそこで終了だ。

 この世界の戦争は、

 目的がお金か食料であることが多い。


 兵士だって多くは庶民だ。

 一応駆り出されてるけど、

 本気で命のやりとりをするわけじゃない。

 時々、口減らしに利用されたりもするけど。


 それに、攻城戦に移ると市民や生活の本拠に

 大きな被害を受けるのだ。

 強固とはいえ、結界魔法はさほど長くは持たない。

 敵も結界魔法を攻略する手立てはあるから。


 だから、その前にいかに勝敗を決するか。

 それがこの世界の戦争のありかただという。


 仮に攻城戦を決意するときは、

 外部からの援軍が期待できる場合が多い。

 そうじゃなければ、攻城戦を選択した場合、

 内部から分裂することも多いのだという。


 勿論、その逆、

 長期戦になったら、攻撃側の食料が不足したり、

 衛生状態の悪化で退却、ということもありうる。

 しかし、概して攻城戦で長期戦になるのは少ない。

 

 そういえば、前世地球でも外壁のある都市って

 あんまりない気がする。

 昔はたくさんあったのだけど、

 上記と同じ理由で外壁はなくなっていったようだ。


 ◇


 外壁は堀に囲まれていた。

 木製の橋を通ると、ようやく正門だ。

 これまた外壁に相応しい立派な門である。


 列は2列になっていて、

 どうやら平民用と特別市民・貴族用に

 分けられているらしい。


 ローリーさんは特別市民枠だ。

 もう、ほぼノーチェックで通り過ぎていく。


 だけど、僕の車は流石に止められた。

 車自体が怪しすぎるからだ。

 ID提示を求められたのだけど、

 僕はもっていない。


 その場合は、入場料を払って仮入場証をもらう。

 若干のお金は村長さんからもらっていた。

 でも、ローリーさんが払ってくれた。


「助かります、ローリーさん」


「いえいえ、山から降りてきたばかりですものね。問題ございません。では、入場いたしましょう」



 門を抜けると、幅10mほどの道が一直線に

 奥まで伸びていた。

 道の両側に3~4階建てのベージュの建物が並ぶ。

 そして、その奥にもう一つの城壁がある。

 領主の城だという。


 ローリーさんは道の一番手前に店を構えていた。


「ご覧の通り、ここは街の目抜き通りでして。私の店はわかりやすくて自慢なんですよ」


 とワハハと豪快に笑う。

 いや、自慢どころじゃないだろ。

 東京だと、東京駅前の丸の内ビルみたいなもんだ。

 名古屋駅前なら昔なら名古屋ビルヂング、

 今だと高島屋かトヨタ。

 大阪だとゴチャゴチャしてるけど、

 梅田のヨドバシカメラかグランフロント?


 ちょっと規模が大きすぎるか。

 じゃあ、渋谷のハチ公まえぐらいには

 わかりやすいランドマークだ。



「アキラ様、身分証明証を作りませんか?」


「簡単にできるもんですか?」


「ええ。商人ギルド、薬師ギルド、冒険者ギルドといったところで発行してもらえます。ああ、私にお任せください。どちらにせよ、冒険者ギルドに向かいますから」


「何から何までご迷惑をおかけしてしまって。お世話になります」


 僕は冒険者ギルドのカードを作ることにした。

 ローリーさんとギルドに向かったこともあって、

 ギルド内でお約束のカラミはなかった。

 職業欄は『薬師』にしてもらった。


 救急箱の薬とかマ◯クとか、

 随分と薬的効果が高いようで、

 お金が必要ならば売ろうと思ったのだ。


「なるほど、それでしたら薬師ギルドにも行ったほうがいいですね。あと、商人ギルドにも」


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