第88話 グレアムコール


 第四試合は特に語るまでもなく、あっさりと【白の不死鳥】が勝利を納めた。

 実力がハッキリと出ていた上に、【紅の薔薇】は俺達に負けたことで動きがかなり悪くなっていたように見えた。


 不甲斐ない敗戦に、グアンザの顔は今にも怒り狂いそうなほど赤くなっていたが、俺に派手にやられた手前怒れなかったようで歯噛みしている。

 不快な声も聞こえなくなったし、しっかりと分からせておいて良かったな。


「次は……【バッテンベルク】と【サクラ・ノストラ】ですかね?」

「俺もそうだと思ったんだが――サリースは俺を呼んでいるな」


 見れば俺を見て手招きしており、もしかしたら次の試合は俺達かもしれない。

 呼ばれるがままサリースの下に向かい、話を伺うことにした。


「グレアム、すまないが次の試合いけそうか?」

「いけるが……何かあったのか?」

「実は【バッテンベルク】のデュークが駄々をこねているとかなんとかで、次に試合を行うのが難しそうなんだ」

「駄々をこねている? ふっ、年齢にしては大人びていると思ったが、やはり子供っぽい部分もあるんだな」

「笑い事ではないんだがな。グレアムのところには二戦連続で戦ってもらうかもしれない」


 【バッテンベルク】が戻らないと、【サクラ・ノストラ】からすぐに【白の不死鳥】との戦いになるのか。

 ここまで疲労はゼロだし、【サクラ・ノストラ】には苦戦はしないと踏んでいるためまぁ大丈夫だろう。


「別に構わないぞ。ここまで一切疲れていないしな」

「ふふっ、そうだろうな。予想に反して全試合で圧勝。相手になるのは【白の不死鳥】だけ――おっと、試合前なのに贔屓するような発言は止めておこう」


 サリースは可愛らしく口を押さえた。

 ここまでの戦いっぷりを見たら、端から見ても【サクラ・ノストラ】には負けるようには見えないだろうな。


「とりあえず次の試合は引き受けた。二人を呼んでくる」

「すまないが……よろしく頼む」


 頭を下げてきたサリースに手をあげて返事をし、俺は二人の下に戻ってきた。


「どうやら俺達の試合らしい。二人共、準備はできているか?」

「もちろん大丈夫です! そもそもここまで戦っていないですし!」

「そうそう! 次の試合もグレアムだけで片付けちゃうでしょ?」

「そのつもりではいるが、どうなるかは分からないからな」


 【サクラ・ノストラ】に視線を向けると、やる気満々の様子で睨んできている。

 戦意喪失していない以上、何が起こるか分からない。


「それでは第五試合を始める。両者共、準備はできているか?」

「ああ、大丈夫だ」

「いつでも構わねぇ」

「それでは第五試合--始めッ!」


 サリースの合図で五人のスキンヘッドが一斉に俺に向かって突っ込んできた。

 その光景は中々に圧巻であり、ゴツいハゲた男が五人向かってくるのは恐怖を感じる。


 近づかせる前に、飛ばす斬撃で終わらせてもいいのだが……【サクラ・ノストラ】にも完勝したい。

 わざと五人を引き付けた上で、連携攻撃を捌いていく。


 斧二人に大剣、それからモーニングスターにハンマーと全員が大きな武器を振り回している。

 動きが鈍くなるという欠点を連携でカバーしているが、まず攻撃を食らうことはない。


 ステップを踏みながら、スキンヘッド達の攻撃を華麗にかわしていくと、徐々に歓声が大きくなってきた。

 ギリギリを狙うことで更に歓声は上がり、攻撃が当たらないことへの違和感と爆発的な歓声で焦りが生まれたのか、【サクラ・ノストラ】の連携に乱れが生じ始めた。


「糞がァ! なんで当たらねぇ!!」

「もっと速度を上げろ!」

「おいっ、勝手にタイミングをずらすな! このボケがァ!」


 味方同士の怒声が飛び交い、一子乱れぬ動きは一瞬でちぐはぐとなり、瞬く間に隙だらけとなった。

 こうなったらもう……試合を長引かせる必要はない。


 動きの被った二人を一気に斬り裂き、それからすかさずに前のめりとなっていたハンマーの男の首を飛ばした。

 残るはモーニングスターの男と、大剣の男だけだが……。


 一気に二人になったことで完全に萎縮しており、動くに動けずにいる。

 カウンターで斬り裂こうと考えていたが、動く気配がないならこっちから攻撃しようか。


 立ち止まった二人のスキンヘッドを、俺は飛ばす斬撃にて斬り飛ばす。

 あっという間に光の粒子に包まれ、【サクラ・ノストラ】はダンジョンから姿を消した。


 魅せる戦いをしただけに歓声は今までで一番大きく、グレアムコールが見学していた冒険者達から巻き起こった。

 俺は少し恥ずかしくなりながらも、その歓声に答えて手を上げる。


「勝者グレアム、ジーニア、アオイ!」


 手を上げたことで歓声が収まりつつあったのだが、サリースの勝者コールによって再び沸き上がり、俺は若干身を縮ませながら、ギルド長達の下へと戻ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る