閑話 ギルド長会議 その三


 サリースは三年前に冒険者を引退し、ドウェインと同じように冒険者ギルドに入った。

 そしていきなり副ギルド長のポストが与えられ、その翌年にはギルド長になった。


 コネを使うことなく、十年かけてギルド長まで上り詰めたドウェインからすると、コネで一気にのし上がったサリースは面白くない存在なのだが……。

 圧倒的カリスマ性で王都の冒険者ギルドを過去最大級にまで成長させているため、文句のつけどころがない。


「サリース、すまねぇ。なんでもねぇんだ。ドウェインをちょっとおちょくったらマジギレしたってだけだ!」

「ふーむ。ドウェインがおちょくられただけでキレるとは珍しいな」

「ふぉっふぉっふぉ。せっかくじゃし、サリースにも聞いてもらったらどうかのう? ドウェインの話が本当かどうか判断してもらうとええ」

「ドウェインの話が本当かどうか……? いまいち話が読めない」


 ドウェインは話を戻したシロ爺を睨んだが、シロ爺は飄々とした態度で知らんぷりした。


「四十二歳でルーキーのおっさん冒険者について話していたんですよ。最近ビオダスダールで冒険者になったみたいなんですが、ドウェインさんの話によると凄腕の冒険者とのことで、嘘か本当かで議論していたんです」

「四十二歳でルーキー冒険者? 普通なら凄腕である可能性は限りなく低いが、ドウェインが言っているなら本当なんじゃないのか? 他国で冒険者をやっていた可能性や、傭兵として死地を潜り抜けていたという可能性もあるからな」


 他の三人とは違い、ドウェインを信用してくれているスタンスを取ってくれている。

 そのお陰で冷静さを取り戻すことができた。


「でも、そんな可能性はほぼないだろ! ドウェインの奴、Sクラス冒険者よりも強いと抜かしたんだぜ?」

「流石にあの発言は私も心外でしたね。Eランク冒険者がSクラス冒険者よりも強い。ありえません」

「ほー、そこまで言い切ったのか。――ドウェイン、そんなに強いのか?」

「……ああ。強いことには間違いない」


 サリースは興味深そうに何度も頷いており、それから何かを思い付いたのかポンっと一つ手を叩いた。


「なら、各街の最強の冒険者を集めて交流会を行おう。私としても、ドウェインがそこまで言う冒険者は見てみたい」


 ここまで味方だと思っていたサリースに急に手を離され、ドウェインは口をポカーンと開けた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! それは流石に駄目だろう!」

「ん? 何が駄目なんだ?」

「ヴぁっはっは! 嘘がバレるからか? ちなみにだが俺は大賛成だぜ! 【紅の薔薇】を見せられる絶好の機会だからな!」

「私も構いません。最強の冒険者パーティをお連れします」

「ふぉっふぉっふぉ。ワシも構わないぞ」


 俺以外の全員が賛成の意思を示したことで、引くに引けない条件が作られた。

 額に汗が滲み、どう切り抜けるか必死に思考したが良い案は一つも浮かんでこなかった。


「……わ、分かった。グレアムさんがいいと言った場合のみ、俺も参加させてもらう」

「はぁ? ドウェインは強制参加に決まってるだろ! ドウェインの言うグレアムさんってのが見たくてこうなってんだからな!」

「最強を決める武闘会を開いても面白そうだな。ふふ、今から何をやるか決めておくとしよう」


 サリースがそう呟いたことで、各街の冒険者を集める会が開かれるのが確定した。

 元を辿ればドウェインが我を失い、グレアムのことを口走ったのが全ての原因。

 頭を抱えて絶望しているが今更後戻りはできない。


「グレアムさんとやら関係なく、初めての試みということで楽しみですね。良かったと思えたら定期開催しても良さそうな催し物です」

「そうだな。ギルド長同士でしか話していなかったが、冒険者同士の交流があった方がいい。刺激にもなるだろうし、思いつきで話したことだったが定期開催も視野だな」

「ドウェイン、顔が真っ青だが大丈夫かのう? ふぉっふぉっふぉ。今更もう後戻りはできんよ」


 シロ爺がドウェインに話しかけたが、頭の中が真っ白になっているドウェインからの返答はない。

 どうやってグレアムさんに報告するか。


 そして、グレアムさんに嫌われないか。

 そのことだけしか考えられず、ドウェインの顔はみるみる青白くなっていった。


「よし。雑談も済んだことだし、そろそろ本題に入ろうか。今日集まってもらったのは、魔王軍に動きがあったからその情報の共有を――」


 サリースが本題に入っても右耳から左耳に抜けていき、結局何も考えられないままギルド長会議は終わったのだった。


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