閑話 ギルド長会議 その二


 先ほど、つい怒鳴ってしまったことからも分かる通り、グレアムさんに関するとつい熱くなってしまう。

 冷静さを失わないようにだけは注意し、ドウェインは他のギルド長達に軽い説明を始めた。


「グレアムさんってのは、最近ビオダスダールの街に来た冒険者だ。凄い実力の持ち主だから、俺はさん付けで呼んでいる。説明としてはこれだけだ」

「元Aクラス冒険者のドウェインが言うんだから、本当に凄い奴なんだろうな。そのグレアムって奴は。……まぁ本当にいたらの話だが!!」

「本当に何の情報もありませんね。ドウェインさんが認めるならば、Aランクくらいの実力はあるはず。私が知らないということは、相当若い人間じゃないとおかしいです」

「若くはない。俺よりも若干年下ぐらいだ」

「はあ?? じゃあおっさんじゃねぇか!! 嘘をつくにしてももっとマシな嘘をつけよ」

「一つも嘘は言っていない」

「ふぉっふぉっふぉ。こりゃ面白くなってきたのう。本当に嘘をついていないのか、調べてみないかね?」


 三人が三人とも信じておらず、ドウェインは完全に嘘つき扱いされている。

 モヤモヤした気持ちを抱えつつも、自分が嘘つき扱いされる分にはまだ耐えられる。


「確か王都の冒険者ギルドからなら、色々な街の冒険者の情報を見ることができるんだっけか? 肝心のサリースがまだ来ていないし、暇潰しに調べてみようぜ」

「趣味で利用するのは止めるべきなのでしょうが、ビオダスダールのギルド長がいるならビオダスダールの冒険者を調べても問題ないはず。私も非常に気になりますし、調べさせて頂きましょう」

「情報が保管されている水晶から見ることができるんじゃったよな。リュネット、取ってきてくれ。お主なら王都のギルド職員もすんなり渡してくれるじゃろう」

「分かりました。借りてきます」


 そう言うとリュネットは会議室から立ち去り、情報保管水晶を取りに向かった。

 適当に雑談しながら待っていると、数分もしない内に水晶を持ったリュネットが戻ってきた。


「無事に借りることができました」

「流石はリュネットだな! 早速見てみるとしようぜ!」


 おっさん三人が集まり、水晶でグレアムさんの情報を調べ始めた。

 ドウェインだけは水晶は見ず、罰が悪そうに遠くから三人を見つめる。


「ビオダスダール。グレアム……と。ありました。名前はグレアム・ウォード。冒険者登録日はつい最近。年齢は……四十二歳?」

「はあ!? 本当におっさんじゃねぇか! ヴぁっはっは! ドウェイン、こりゃ大きく出たな!」

「ほれほれ、まだ分からんぞ。凄い偉業を成し遂げているかもしれん」

「…………いえ。偉業らしい偉業は成し遂げていませんね。現在の冒険者ランクはEランク。高難度と呼べるのは、緊急依頼で出されたオーガの群れの討伐だけ。依頼達成率は驚異の100%ですが、ルーキーとEランク、それから先ほど緊急依頼だけですね」

「なんじゃそれ! 本当にただの雑魚のおっさんじゃねぇか! ヴぁっはっは! 駄目だ、面白すぎるぜ!」


 駄目だと分かっているのだが、馬鹿にして笑っている三人へのイライラが募り始めていく。

 

「ふふふ、期待させてこれは面白いですね。ドウェインさんにもギャグセンスがあったなんて、これは良い情報を得られました」

「こんなのをありがたがっておるのだから、ビオダスダールはよほど冒険者不足のようじゃな。ふぉっふぉっふぉ。【白の不死鳥】が引き抜かれてイライラしておったが、ドウェインのお陰で気分が晴れやかじゃ。ふぉっふぉ、グレアムとやらを紹介してくれてありがとのう」

「…………黙って聞いてりゃ、グレアムさんを侮辱しやがって。片腕ながらオーガを楽々斬り飛ばし、俺ですら見たこともない魔法で焼き払ってみせたんだぞ! 確実にお前達の街にいる冒険者には確実にできない芸当だ!」

「おいおい、流石に擦りすぎると冷めるぞ。もし本気で言ってるならボケてんな! どう見てもオールドルーキーを良いことに、低ランク依頼をこなしてイキってるおっさんだわ」

「……次、グレアムさんを馬鹿にしたらぶち殺す」

「何度も言わせんな! 調子に乗ってるだけのいい歳したおっさんだ」

「――殺す」


 我慢の限界を迎えたドウェインが剣を引き抜き、グアンザに斬りかかったタイミングで――。

 会議室の扉が開き、一人の女性が部屋に入ってきた。


 まず目がいくのは大きな胸。

 鎧を来ているのだが、その鎧の上からでも分かるぐらいの巨乳。


 そして胸だけではなく、スラッとした長い足、引き締まったウエスト、腰まで伸びている真っ赤な長い髪。

 スタイルだけではなく大きな目、整った程よく高い鼻、桜のような唇。

 顔自体も小さく、男ならば絶対目を奪われる美貌を兼ね備えている。


「何をやっているんだ、ドウェイン。暴れるなら私が相手になるぞ?」


 殺気を飛ばされ、ドウェインは振り下ろしかけた腕を止めた。

 この赤髪の女性こそ、王都の冒険者ギルドのギルド長であり、元Sランク冒険者サリース。

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