第47話 一撃
木をへし折りながら姿を現したのは、灰色の毛を身に纏ったクマのような魔物であるバーサークベア。
目は血走っており、口元からは牙を覗かせている。
体長は六メートルほどと、レッドオーガやフレイムオーガと比べても桁違いに大きい。
半開きの口からはダラダラと涎が垂れ出ており、視界に入った俺達を捕食しようと一気に動き出した。
「どうする? アオイとジーニアが戦うか?」
そう声を掛けたのだが、二人からの返事はない。
登場の仕方もド派手だったし、オーガ以上の圧を受けて一瞬ではあるだろうが萎縮してしまっているようだ。
こうなったら仕方がないが、一匹目は俺が倒すとしよう。
【浄火】の魔法で焼き殺してもいいが、折角これだけの巨体の魔物相手なら肉弾戦を行いたい。
刀も抜くことはせず、拳を構えて固まっている二人の前に出る。
肉弾戦を行うというのに片腕しかないのはネックだが、この程度の相手ならば片腕でも十分。
大口を開け、舌を伸ばしながら食いつくように襲い掛かってきたバーサークベアに対し、避けることをせずに真っ向から殴り合いを仕掛ける。
動きは襲いが、巨体なだけあって勢いはある。
俺はニヤリと笑ってから、大口を開けて噛みついてきた顔面に拳をぶっ放した。
鼻と前歯の間の拳がクリーンヒットし、若干の重みを感じながらも拳を振り切る。
殴るという行為を久しく行っていなかったため、爽快感が凄まじい。
回転しながら吹っ飛んでいったバーサークベアを見て、更に血が滾ってきた。
次はハイキックを浴びせてもいいし、ボディブローを効かせても面白そうだ。
軽くステップを踏みながら、バーサークベアが起き上がって再び攻撃してくるのを待っていたのだが……いつまで待っても起き上がる気配がない。
「……ん? バーサークベアはなにしているんだ?」
「グレアムさん。そのバーサークベア、もう死んでるぞ」
ぽつりと呟いた一言に返事をしてくれたのはギルド長。
ただ、今の一撃で死んだということが信じられず、俺は倒れたバーサークベアの様子を見に向かったのだが……本当に白目を向いて死んでいた。
「多分だが頸椎が折れたんだろう。……いや、それだけじゃないな。衝撃で脳もぐちゃぐちゃになっているだろうし、バーサークベアからしたらどうにもならない一撃だった」
「あんな巨体が吹っ飛ぶところ、初めて見ました……! 巨体の方が突っ込んだのにふっ飛ばされるって、何か凄い変な感じでしたよ!!」
ギルド長とジーニアが褒めてくれているが、俺としては物足らないという感情しかない。
これからってところだと勝手に思っていたが、パンチすら耐えられなかったか。
「あっけなさすぎて物足らないが、まだ奥から十八体ほど迫ってきている。どうする? このまま俺が倒してしまってもいいが、二人にとっては良い機会だと思うぞ」
「……私は戦います! グレアムさんの戦闘を見ていたら体の力が抜けました!」
「わ、私は……」
アオイはオーガの時と同じように、完全に委縮してしまったように見えたが……。
力強く首を横にぶんぶん振ると、自分の頬を思い切り叩いた。
「――私も戦う! ここで逃げたらオーガの時と一緒だ!」
「気合いを入れたところ悪いが、そんなにビビらなくていいぞ。図体がデカいだけで攻撃が雑。大きなバトルエイプだと思えば楽に戦える」
「絶対にそんなことはないと思うんですけど……倒せるように頑張ります!」
ジーニアが気合いを入れたところ、後続を進んでいたバーサークベアが姿を現した。
先ほどの個体よりも小さくはあるが、それでも五メートルは優に超えている個体が三体。
一体だけでも迫力があったが、三体並ぶと圧巻の光景だな。
流石に数的不利の状況は厳しいと思ったため、俺は二体を仕留めることに決めた。
「二体は俺が仕留めるから、ジーニアとアオイは前にいる一体だけに集中してくれ」
「なぁグレアムさん、どんな方法で倒すつもりなんだ?」
「魔法を使おうと思っている。近接戦は熱が冷めたからな」
「熱が冷めたから魔法……! くっはっはっ! この間の不思議な炎魔法か?」
「いや、今回は無属性魔法で倒すつもりだ。火属性魔法ばかりを使っていられないからな」
ギルド長の質問に返答しながら、姿を見せたバーサークベアに片手を突き出す。
そして、突き出した右手に魔力を込め――。
「【
俺の詠唱と共に、ふわふわと宙を浮き出した二体のバーサークベア。
魔法によって重力をコントロールする魔法であり、ふわふわと一見楽しそうに浮遊している二体のバーサークだが、呼吸ができないようで藻掻き苦しんでいる。
「長くは苦しまないよう仕留めさせてもらう。――【
次の魔法を唱えた瞬間に、浮遊していた二体のバーサークベアは地面に叩きつけられるように死んだ。
無重力状態から一気に重力をかけたことによる圧死。
見た目のインパクトは強いが、苦しむことなく逝かせてあげることはできたはずだ。
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