第39話 気配


 ギルド長との話し合いから三日が経過した。

 今日はデッドプリーストに約束していた通り、俺の方から一度旧廃道へと足を運ぶ予定。


「今日はいよいよ死の魔術師に会いに行くんだよね! 出会ったら死ぬと言われている魔物がどんなのか楽しみ!」

「私は怖いですけどね……。前の印象が強すぎて、もう鳥肌が立っています」

「ジーニアは大丈夫だろう。完全に服従していると思うぞ」

「私にはしていないと思いますよ。魔物ですし、きっとグレアムさんの前だけのポーズですよ」

「そうだとしたら、今回で分からせてやればいい。レッサーオーガ以降、数段飛ばしで強くなっていってるからな」

「えへへ、全てグレアムさんのお陰です! あのレッサーオーガとの戦い以降、どうこの目を使ってどう体を動かすのが正解なのかが、おぼろげながら見えているんですよね」


 ジーニアが自ら言っている通り、本当にあの一戦後の成長は凄まじい。

 元々戦闘に向いている良い目を持っていると思っていたが、その目の使い方を理解し、体もようやく追いついてきた感じがあるのだ。


「ルーキーに毛が生えたような動きだったのに、あの一戦でCランク冒険者ぐらい動けるようになったもんね! いいなぁ……私もグレアムの指導を受けたいなぁ……」


 チラチラと俺の顔を見ながら、わざとらしい口調で言葉を漏らしたアオイ。

 村にいた頃から指導はしていたし、嫌いではないから別に構わないのだが、ジーニアのように上手くいくことは滅多にない。


 というか、フーロ村でもここまで急激に成長した人を見たことがなかったし、たまたまハマったってだけだと思う。

 あまり過度な期待をされたら困るが、アオイも善行を手伝ってくれると言っているし、戦闘指導くらいならいつでもやる。


「指導ならいつでもしてやる。その代わり、過度な期待はしないでくれ。ジーニアはたまたま上手くいっただけで、元々のポテンシャルが高かっただけだ」

「そんなポテンシャルなんてないですよ! 本当にグレアムさんのお陰です」

「やったー! 別にジーニアほどの急成長は期待してないから大丈夫! バーサークベアを倒したら、私に指導してよ!」

「ああ、分かった。前々から気になっていた無駄な動きがあったし、徹底的に指導する。厳しくいくから今の内から覚悟しておいてくれ」


 そんな会話をしつつ俺達は廃道を抜け、旧廃道へと足を踏み入れた。

 旧廃道に入ると一気に気温が下がり、暗いのも相俟って雰囲気が出始めている。


「うっわぁ……! 初めて来たけど、めちゃくちゃ怖い! いかにもな場所じゃん」

「確かに雰囲気だけはあるな。でも、恐れる必要は全くない」


 無駄に怯えているアオイに声を掛けつつ、旧廃道の奥を目指して歩いていくと、あっという間に例のゴミ溜まりまでやって来ることができた。

 旧廃道では魔物が襲ってこないし、程よく涼しいこともあって非常に歩きやすい。


 そんな感想を抱きながらゴミ溜まりに目を向けると、中心にデッドプリーストが立っているのが見えた。

 その横には前回斬り殺したのと同種のゴーストウィザードが二体おり、頭を下げてこちらを向いている。


「グレアム様、わざわざ足をお運び頂きありがとうございます! 何もお出しできないことをお許しください!」

「別に期待していないから気にしなくていい。それよりも、前回は慌てて帰ったが大丈夫だったのか?」

「それが……少し厄介なことが分かりまして、フレイムオーガだけではなかったんです!」

「ん? どういうことだ?」

「レッドオーガの群れにフレイムオーガが誕生したということを聞いて、私はすぐに手下のアンデッドを使って調査を行ったところ……シルバーゴーレムのところではゴールドゴーレムが誕生しており、バーサークベアのところではベルセルクベアが誕生していました!」


 デッドプリーストの言っている意味をいまいち理解できていないのだが、東西南北でそれぞれ統治していた魔物たちの上位種が同じタイミングで生まれたってことか?


「何か色々と臭うな。東のエリアを統治するデッドプリーストの上位種は生まれていないのか?」

「残念ながら、私達の群れだけは大きな変化がありませんでしたね。他とは違い、デッドプリーストの群れではなく私一人しかいないというのが関係しているのかもしれませんが」

「そうなのか。デッドプリーストの上位種も生まれていれば、その理由が分かりそうだと思ったんだがな。ちなみに理由については何か知っているのか?」

「噂の段階ですが……魔王軍を名乗る者が接触して回っているという話を聞きました」


 魔王軍。その言葉を聞いて、思わず体の力がグッと入った。

 フーロ村にいた時は何度も襲撃され、何度も命の危険を感じた相手。

 特に最後の襲撃は本当に死闘であり、つい体の力が入ってしまうのも無理がないだろう。


「ぐ、グレアムさん、大丈夫ですか? な、何か雰囲気が怖くなりました……!」

「さ、殺気が漏れてる感じがする! 体が震えるから止めて!」

「あっ、すまない。つい力が入って、気配が漏れ出てしまっていた」


 ジーニアとアオイに注意されたことで、普段抑えている気配が漏れ出てしまっていたことに気がつく。

 魔王軍との戦闘を思い出して、無意識に気配を抑えるのを止めてしまっていた。


「ぐ、グレアム様! わ、私達に向けた気配じゃありませんよね!? 既に死んでいる身なのですが、体がブルブルと震えて仕方がありません」


 正面を向き直してみると、デッドプリーストが後ずさりしながらブルブルと体を震わせていた。

 殺気を向けられたと思わせてしまったようだ。

 これは今後も気配は漏れ出ないように気をつけなくてはいけない。



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