第36話 急な来訪者


 モヤモヤした気持ちが残ったままだが、とりあえず街に戻ってジーニア、アオイと合流しよう。

 本当はギルド長に善行についての相談もしたかったのだが、あの訳の分からないハイテンション状態じゃ話なんてできないだろうしな。


 ゴブリンを討伐した場所から去り、ビオダスダールの街に向かっていると……何やら覚えのある気配が街の中にあるのを感じ取った。

 街を出た時は感じなかったため、ゴブリンを狩っている間に街に来たんだろうか。


 とりあえず入門検査を行い、街をうろついている覚えのある気配の下に一直線で向かう。

 騒ぎになっていないし、暴れに来た訳ではないと思うが……なんでいきなり街にまでやってきたのかが謎。


「おい、デッドプリースト。街まで来てなにやってるんだ?」


 俺が声を掛けると、体を跳ねらせて驚いたデッドプリースト。

 そう。何故か街に入り込んでいたのは、旧廃道の主であるデッドプリーストだった。


 以前も使っていた透明化の魔法を使っているお陰で、周囲の人間には気づかれていないようだが、俺から見てみれば丸見えの状態。

 こんなに魔力が漏れ出ているのに、周囲の人間が気づいていないことの方が不思議なんだがな。


「あっ、グレアム様! 私を見つけてくださったんですね!」

「おい、大きい声を出すな。ここじゃ何だから場所を移そう。ついてきてくれ」


 周りの人間が気づいていないということは、このままデッドプリーストと会話を続けたら俺がおかしな人間ということになってしまう。

 悪目立ちは避けたいため、俺はデッドプリーストを連れて安宿に戻ってきた。


 本当は冒険者ギルドに向かい、ジーニアも交えて話をしたかったところだが……冒険者ギルドじゃデッドプリーストに気づく人間がいてもおかしくないからな。

 魔物を街に引き入れたと思われたら終わりのため、仕方なく俺が寝泊まりしている安宿まで連れてきた。


「さて、色々と聞きたいことがあるんだが……街に何をしにやってきたんだ?」

「グレアム様に会いに来たんです! 早急に耳に入れてほしい情報がありまして、危険を冒して街までやってきました」


 何か企んでいるのかとも思ったが、どうやらそんな感じではなさそうだ。

 アンデッドの癖に妙に瞳がキラキラとしているし、表面上かと思いきや本当に服従している様子。


「てっきり襲いにでも来たのかと思ったが、俺に話があって街まで来たのか」

「お、襲うだなんてやめてください! グレアム様の力を見て、反抗しようだなんて微塵も思うことなんてできませんよ!」

「それなら別に構わないんだが、わざわざ街にまで聞かせたい話っていうのは何だ?」

「いきなりですが本題に入らせて頂きますね。まずは……この辺りでは西のバーサークベア、南のレッドオーガ、北のシルバーゴーレム。そして東は私が長として、魔物たちを統治している形なんです」

「ん? 急にどうした」

「最後まで聞いてください! えーっとそれでですね、この四匹の力が拮抗していたお陰で、魔物たちの間で何も起きることがなく比較的平和に暮らせていたんですよ。それがつい先日、南のレッドオーガが何者かに倒されてしまったんです。そのせいでこの辺り一帯の均衡が崩れ、色々と荒れだしたんです。……本当に傍迷惑な奴が現れやがって!」


 先日、南のレッドオーガがやられたって……多分だが、俺が倒したオーガだよな?

 俺がやったと告白する前に悪口のようなものを言い始めたため、完全に名乗り出る機会を失ったのだが、ここは流石に言わないと駄目だろう。


「すまないが、そのレッドオーガの群れを壊滅させたのは俺だ」

「――へっ? ……えっ!? ぐ、グレアム様がやったことだったんですか? だ、だったら何も悪くありませんね! 私のようにすぐに屈服せず、やられたオーガが全部悪いです!」


 とんでもない手のひら返しに思わず笑ってしまう。

 先ほどまで恨み節を聞かせておいて、この方向転換は流石に無理がありすぎる。


「別に俺が悪いで構わない。何も知らずに殺してしまった訳だしな」

「いやいや、グレアム様が間違っていることなんてありません! レッドオーガもこの街を落とそうという動きを取っているという話もありましたし、グレアム様もそれで討伐なされたのですよね?」

「まぁそうだな。オーガが侵攻してきたという話を聞いて、討伐に動いたって感じだ」

「やっぱりそうだったんですね! よかった……。悪いのは全部レッドオーガです!」


 何が良かったのかさっぱり理解ができないが、デッドプリーストの反応が面白いからいいか。

 それよりも一つ気になっていることがあって、ビオダスダールに居た人達はレッサーオーガとレッドオーガの区別がついていなかったのだが、デッドプリーストはしっかりレッドオーガと呼んでいること。

 

 魔物の間では、レッドオーガとレッサーオーガが別種だと分かっているのかを尋ねてみたい。

 もし別種だと分かっているのであれば、レッドオーガではなくフレイムオーガが一匹混じっていたことも伝えた方がいいはずだからな。


「それよりも一つ聞きたいことがある。レッドオーガというのは魔物の間では当たり前の共通認識なのか?」

「ええ、そうですね。レッドオーガはオーガの上位種です!」

「へー。じゃあ緑色のあの魔物もオーガではあるのか」

「はい。普通のオーガがあの魔物って認識です。見た目から能力まで何もかも違いますが」

「なるほどな。そういうことならもう一つ伝えておくことがある。レッドオーガの群れを殲滅した時、フレイムオーガが一匹混じっていた。これはデッドプリーストも把握していた情報か?」

「フレイムオーガが混じっていた!? ……ということは、急に侵攻を始めたのはフレイムオーガが生まれたからってことか。こ、これはすぐに情報を回さないと――いや、先にグレアム様が先か!」


 俺の情報を聞いた瞬間に慌ただしくなり、部屋から飛び出そうとしたが思いとどまった様子。

 命乞いをしてきた時から思ったが、本当に魔物らしくない魔物だな。


「わざわざ俺に伝えに来たことは、レッドオーガが何者かに殺されたから気を付けてくれってことだろ? 把握したからもう行っても大丈夫だぞ」

「いえ、そのこともあるんですが……。レッドオーガがいなくなったことで、空いた南のエリアを狙って魔物たちの動きが活性化し始めているんです! バーサークベアも動き出していて、この街の北西に位置するエリアを拠点にしているバーサークベアが取りに動くとしたら――」

「この街を通ることになるのか?」

「流石グレアム様、話が早くて助かります! そういうことですので、ひとまずバーサークベアには気をつけてください! フレイムオーガを倒したグレアム様にはいらぬ心配だったと思いますが」

「いや、わざわざ情報を伝えに来てくれて助かった。近い内に今度は俺から足を運ぶ」

「いやいや、グレアム様のお時間を取らせる訳にはいかないので私が来ま――」

「いや、お前が街に来て見つかった時が面倒くさいから俺が行く。お前はもう行って大丈夫だぞ」

「分かりました! 旧廃道でお待ちしております! それでは失礼致します!」


 ペコペコと何度も頭を下げてから、部屋から飛び出ていったデッドプリースト。

 何から何まで嵐のような奴だったな。


 それにしても、オーガの群れを倒したことで魔物たちの動きが活発化してしまった……か。

 仕方ないとはいえ俺の責任でもあるし、最初の善行は活発になり始めた魔物たちを抑えるでいいかもしれない。


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