ターン4-5 現世遥
結局のところデッキを所有していなかった俺は手札5枚までだけで戦うルール『トップファイブマッチ』でマジシャンズバトルに挑んだ。
「俺は手札からカウンターマジック『怒れる天帝の神罰』の効果の発動を宣言する! この効果により、俺はLPを半分にすることで発動ができる。この効果により相手マジシャンに対し。相手手札の枚数×5のダメージを与える」
通常のカウンターマジックはチェイン宣言でのみでしか使えないが。このカードの場合はライフコストを支払う事で踏み倒し発動ができる便利な1枚だ。なお、デッキには1枚だけしか入れられない『制限マジックカード』に指定されている。
「「何でそのレアカードを持ってるんだよっ!?」」
「カードはカドショで買った。さあ、覚悟しろこのクソ野郎ッ!!」
《我の名の下に神罰を下す。神技、ライトニングストーム!!》
「「うぎゃああああああああああ!!」」
――生身の人間にリアルダメージは良くないだろう。これでいい。
聖なるドーガを何重にも纏う天帝の聖杖から放たれた呪文による豪雷の5連撃が男達に容赦なく直撃する。
力の調節はできるので、程々の痛みと共に目の前に現れた天帝の姿を見て怖がってくれれば、自分としてはそれで良いだろうと思った。
その後。勝負に敗北し逃げ出した二人組の男達の背中を見送り。
「何処に行った?」
俺は連れ去られた遥を見つけ出すのに歌舞伎町の街の中を走り回る。
『こっちだよ』
「あ、頭から声がっ!?」
突然、俺の脳内に中性的な声をもつ何者かが喋りかけてきた。
『こっちに来てよ』
「お、おう……」
とりあえず声の主の案内通りに足を運んでいく。
『そっちじゃないよ』
「あ、すまん」
『ここだよ。はやくご主人様を助けて勇者様』
――おれ、勇者様じゃないし。
だが目の前に見つけることの出来た幼馴染みを救うことだけは分かる。
――遥に今、何をしたんだアイツ……ッ!!
俺は手加減などせずノーマルマジック『渾身のストレートパンチ』を発動して、遥を連れ去ろうとしている男の顔面に、カードの力で呼び出した巨人の豪腕を用いた殴りを直撃させる事に成功し今にいたる。
手応えはあったとみていい。
「やりやがったなぁっ!」
「遥を返して貰うぜ。俺はサポートマジック『ポジションチェンジ』のカードの発動を宣言する。この効果の対象として遥を指名する。この瞬間に遥は返して貰うぜ!!」
このカードを普段のマジシャンで使う時は、その効果で相手の手札1枚と、トラッシュゾーンにトラッシュされた状態のカード1枚を入れ替える行為である『墓地メタ展開』をしたい時に利用する妨害札だ。
しかし、この盤面において俺は応用的な使い方を網だした事で、遥をトラッシュゾーンにある対象と見立てて指名をし、手札の適当なカードをトラッシュする事で物理的な移動のマジシャンカードに昇華させる事に成功した。
「お、俺の女がっ!? おのれ……!!」
――遥はお前のモノなんかじゃない!!
そして今、目の前には瞬間移動をした遥がおり、トラッシュしたカードに関しては残念ながら魔人の力の行使の為に犠牲となり、塵となって跡形もなく虚空に消えた。
「遥っ、大丈夫か!?」
「…………」
――目の瞳孔が開いてるな……意識の混濁がみられる……これは……。
「精神支配系のマジックにやられたか……まずい……」
このままではこの世界に戻れなくなっていまう。
――俺の記憶が正しければ確か。彼女の身につけている鞄には御守り代わりのデッキが必ず入っているはずだ。
遥を信じよう。
「あった……!」
そのデッキの中にあるカードの一枚が光り輝いている。
ついさっき、俺をここまで導いてくれた本人が訴えかけており。
「シャンバラ。お前の力が必要だ……!」
俺はそのカードを引き抜ぬくと。
『ボクも勇者様と一緒に頑張りたい』
「頼んだぞシャンバラ! 発動宣言。聖霊龍の加護の力を行使する。このカードの効果により、聖霊龍の解呪の力によって、遥にかけられている状態異常の効果は消滅し無力化される」
発動後。聖なる力を有した暖かな光の粒子が遥の体を包み込む。
「か……ずま……」
恐るべき効力を持つ精神支配系の呪縛から彼女は解放される事になった。
俺に気づいてすすり泣く彼女をギュッと優しく抱き寄せる。
そして目の前で動揺して後ずさりをする悪人に鋭い目つきで睨み付け。
「よくも……俺の大事な彼女をこんな目に遭わせてくれたな……!!」
「はっ、たかがそれだけの事だろ? 女なんていくらでもコレクション出来るってのに。その女にご執心とはお熱いことだねぇ、うひひ!」
「……冗談も大概にしろよ? 俺は今にもてめぇを殴り倒してやりたいって腹の底から思ってるんだよ……っ!!」
俺の心の中にあるマジシャンの闘志に火がつく。
「やれるもんならやってみろよ」
「お前もマジシャンだろ? やることは決まってるよな?」
「マジシャン同士が出会えばそこは戦場になる。いいぜ、今日はなんだかむしゃくしゃしてて腹が立ってんだ。それについ最近まで人間だった俺がようやく中毒死の恐怖を乗り越えて魔人になれてよ。いままでずーっと、試せずにいてつまらない思いをしてきたんだよ」
「良いじゃないか平和で」
「平和なんて暴力の名の下で成立する言葉だぜ坊ちゃん?」
「寝言は寝てからいいな青二才」
という煽り合いをした後に男が自己紹介をする。
「俺様は心の魔人。この心の支配のカードに選ばれし男」
――本名は名乗らないのずるくね?
「俺は結城一馬だ。事故で死んだ後に偶然にも魔人になった。この力が何の為にあるのかはよく分からない。だが、俺はこの力について自分の信念をもって使う事に決めている」
「無知のクセして、この俺様に戦いを挑むとはとんだ命知らずな坊ちゃんだ。ははっ、いい度胸してるじゃないか!」
「ああ、そうだな。だが、それよりも。ひとつ、お前に言いたいことがある」
「なんだぁ、言って見ろよ」
あぁ、つまんなと視てくるアイツに俺はここで宣言しよう。
「俺は、俺の信じる正義でお前をマジシャンズバトルでぶっ倒す!!」
「その安っぽい正義がお前の喉をかっ切る事を思い知るがいい!! この俺、心の魔人が操る『寄生獣』デッキと。貴様の女が持つゴミクソデッキのどちらが優れてるかをこの場で教えてやる!!」
「あんたと一緒に組んだ思い出の詰まったデッキ」
「遥、無理するな」
調子が戻ってきたのか、遥が俺達の会話に入ってくる。
「……好き勝手に言われて癪よね本当に……あたし達が長年かけて、丹精込めて構築したデッキがあんなインキャに負ける分けないじゃん……」
「遥……お前……」
「でしょ、一馬?」
辛い状況なのにも関わらずニコッと笑みを返してくる彼女に胸打たれる。
「やっぱそうだよな遥……っ!! 惚れ直したよ!!」
「バカ言ってないで一馬。そのデッキでアイツを倒して!」
「ああ、任せろ。おい心の魔人。バトルだ!!」
「こいよ。ならば俺様も元の姿に戻ろうじゃないか……はぁあああああああっ!!」
その瞬間、心の魔人が覇気の籠もった声を上げ液状になり、上半身を人間、下を蛸の足で地面に立つ異形の化け物に変身した。
互いに40枚あるデッキの準備を終えて初期手札の5枚を手にそろえる。
「「マジックスタート!!」」
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