マジックマスターズー偽りの彼女と恋する心の涙ー

天音碧

第1章

プロローグ:魔術の始まり


 古き時代において、トレーディングカードゲームは手のひらサイズに描かれたイラストカードを購入しコレクションをして鑑賞するのが本来の遊び方だった。

 1993年になり、とある数学者の人物がボードゲームの待ち時間の片手間に遊ぶ事が出来るゲームを考案する。

 動く駒としてイラスト付きのテキストカードを用いり、2人以上の対戦者が対面に座り、それぞれが用意した自慢のデッキを用いて対戦ゲームに興じる。

 その遊び方を広める為に産み出されたカードゲームは、発祥国であるアメリカで話題を巻き起こした事を皮切りに、日本へと輸出されて昇華し世界へと広がる事になる。

 そして今日に至るまで、トレーディングカードゲームはその時代ごとのニーズに合わせて多様な変化を繰り返しながら、カードゲームを愛して止まない愛好者(プレイヤー)達を愉しませてきた。

 浅い歴史を持つにも係わらず、トレーディングカードゲームはひとつの娯楽文化として定着している。

 そしてここ日本ではつい10年前に、TCGを取り扱う各社玩具メーカーがしのぎを削り合う戦国時代において、とあるベンチャー企業が考案したカードゲームが日本にのみならず、世界中のカードゲーマーに衝撃を与えて話題となった。

 その理由は、他のカードゲームでは為し得ることが出来なかった『子供の頃に憧れた、魔法のような体験』ができるというテレビCMの触れ込みから端を発している。

 実際にその夢ようにも思える魔法のような体験は、発売から触れて遊んだプレイヤー達の間で瞬く間に現実の物となって今日にまで到り、その話題性から同業他社の客層を取り込んでゆき、他の人気TCGと肩を並べるまでに大きくなっていった。

 ベンチャー企業の商業的な活動は成功を収める事になり、現在も衰えを知る事も無く底知れない成長を続けている。

 そのカードゲームの対象年齢は『9歳以上』とされていながらも、夢を忘れた大人から、将来に目を輝かせて憧れる幼い子供達の間では、そのカードゲームを皆は『マジックマスターズ』と呼んで愛しており、そのカードを巧みに操り、己が誇る矜持と勝つために磨き上げてきたタクティクスで闘う者達を皆で『魔術師――マジシャン』と呼んでいる。


――そしてここにマジックマスターズを情熱的なまでに愛し、自分が持つ全てを捧げるまでにしてカードゲームの活動を続ける。ひとりの青年マジシャンの物語が幕を開ける。

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