【短編集】旅人は出会う
かねおりん
第1話 夜だけの町のヒマワリ
僕は、旅をして、世界中を見てまわっている。
沢山の町を見てきたけど、忘れられない町がある。
忘れられないのには、理由がある。
他の町と違って、その町がどこにあるのか、見つからなくなってしまったからだ。
その町は、夜しかない町だった。
一日中、とっても寒くて暗いけど、星や月がキラキラと輝いていた。
そんな町で僕は、一輪のヒマワリに出会った。
ヒマワリはひとりぼっちだった。
「ねぇどうして君は、ひとりで夜の町にいるの?」と聞いてみた。
ヒマワリは答えてくれた。
「太陽を追いかけてここにきたんだよ」
太陽のことが大好きなヒマワリは、いつの間にかいなくなって、帰ってこなくなった太陽のことをずっとここで待っているのだという。
僕は伝えた。
「太陽なら他の町にいるよ」
ヒマワリは驚いたけど、同時に、がっかりしていた。
「ここが太陽との想い出の場所なんだ、動くわけにはいかないんだ。約束したから。」
そうヒマワリは言って、僕を見た。
僕は、一目でヒマワリのことが好きになった。
ひとりぼっちで寂しいなら、僕が一緒にいてあげたいと思った。
それから、僕は焚き火をしたり、テントを張ったりしてヒマワリの傍で過ごした。
ヒマワリは僕に聞いてきた。
「君は旅人でしょ?なんでずっとここにいるの?」と。
僕はヒマワリに何て言っていいかわからなくて
「気分きままに、いたいだけいるだけだよ」と
ヒマワリの傍にいたいからとは言えずに答えた。
ヒマワリは僕がいたら、寂しくないんじゃないかと思っていたけど、
もしかして僕がいない方がいいのかなと、少し不安になった。
だってヒマワリは、出会った時から、ずっと下を向いたままだから。
元気になってほしかった。
僕がいることで、元気になってほしかった。
いなくなった太陽なんかに、負けたくなかった。
僕がこんなに傍で一緒にいるのに、ヒマワリはずっと約束を守るために太陽を待ち続けた。
僕がヒマワリにしてあげられることはないだろうか?
そう思いながらも、僕はヒマワリの傍にいたかった。
もしかしたら、僕がいなくなったら僕も太陽みたいに、待ってもらえるかな?
そして、帰ってきたら、喜んでくれるかな?
そう思った僕は、ヒマワリに約束をした。
「僕は、気ままだから、また、旅に出ようと思うけど、必ず君に会いに、戻ってくるから待っててくれる?」と。
ヒマワリは下を向いたまま
「じゃあ、この種を、旅の途中に落として行ってくれないか?」とヒマワリの種を僕に渡してくれた。
「行かないで」って言って欲しかったけど、言ってもらえなかった。
テントを畳み、焚き火を消して、僕はヒマワリに別れを告げて夜の町から、旅立った。
夜の町は暗くて、道に迷ってしまった。
そういえば、ヒマワリに渡された種があった!
道に迷わないように、ヒマワリの種を少しずつ落として、それでもぐるぐると迷いながらようやく明るい空の下に出た頃には
ヒマワリから渡された種は、すべて落としてしまっていた。
僕は、たくさん歩いて疲れてしまって長く眠った。
ふと、目を覚まして、やっぱりヒマワリのところに戻りたい!
そう思って道を戻り、夜の町に向かった。
ところが、いつまでたっても夜の町に辿り着くことができなかった。
大好きなヒマワリに、僕は約束をしたのに戻ることができなかった。
ひとりぼっちでおいてくるんじゃなかった。
大好きだって伝えれば、よかった。
太陽みたいに必要とされたかったのに、試すようなずるいことをしてしまった。
どんなに歩いても、二度と夜の町に行くことができなかった僕は
太陽が照りつける暑い空を睨んで、ふと、気がついた。
辺り一面ヒマワリ畑であることに。
そうか、僕は太陽にヤキモチを妬いて、ヒマワリに振り向いて欲しかったけど、
ヒマワリは今、真っ直ぐに太陽を見つめているんだ。
僕が落として行った種は、太陽が帰ってくる道しるべになったんだな。
ヒマワリの待ち望んでいた太陽にヤキモチも妬いたけど、こんなにたくさんのヒマワリが、嬉しそうににしている姿は僕にとっても嬉しかった。
そして、僕はまたヒマワリ畑に別れを告げて、旅の続きに出発した。
遠くから、聞こえた気がした
「ありがとう」
というヒマワリの声が。
おしまい
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