毒好きエルフの即死旅~勇者パーティーから追放された聖人に拾われました~

神霊刃シン

本 編

序 章 【ライジェル視点】

第1話 聖人追放(1)


 なにかの演出だろうか?

 昼間だというに窓帷カーテンを閉めて、部屋を薄暗くしている。


 彼女のことはおさない頃から知ってはいるが――


(形から入る性格タイプだったな……)


 誰も注意してこなかったのだろう。

 そのまま成長したため、こじらせてしまったらしい。


 まあ、一国の姫とはいっても、彼女は第三王女だ。


 そんな彼女に対し、取り入ろうとする者はても『彼女のためにきびしくしつけよう』という人間は周りになかったのだろう。


「聖人『ライジェル』――」


 んだ声で彼女が俺の名前を呼ぶ。

 そんな俺の手には卵の入ったかごがあった。


 街で治療をしたお礼にもらったモノだ。

 まだまだ、物資も人手も不足している。


 新鮮な卵は貴重だった。これで料理長にパンケーキでも作ってもらい、姫様の機嫌でも取ろうかと思っていたのだが、遅かったらしい。


「あなたが何故なぜ、ここへ呼ばれたか分かるかしら?」


 そう言って、玉座をした木製の椅子イスに腰かけ、足をんでいるのは『メドゥサ』王女だ。背伸びしたい年頃なのだろう。


 骨盤へ均等に力がかからないため、背骨が左右に曲がってしまう。

 姿勢が悪くなるので、めるように注意はしているのだが――


(俺の言葉は、聞く気はないようだな……)


 最近は無駄ムダづかいも多い。反抗期というヤツだろうか?

 弱小国家であるゴルゴーン王国であれば、取り入るのも簡単だと思い、面倒を見てきたのだが――


(そろそろ、潮時しおどきかもしれない……)


 出会った頃は自分に自信もなく、素直であつかいやすかったのだが、甘やかしぎたようだ。段々と我儘わがままになってしまった。


 まあ、俺の目的はここ『魔王大陸インサニタス』への上陸だ。

 すでに彼女は役目を終えていた。


「いいえ、見当も付きません」


 と俺は即答する。経験上、真面まともに考えても馬鹿を見るだけなので、俺は早々に考える事を放棄ほうきした。


「はっ?」


 とメドゥサ王女――あなた、そんな事も分からないの?――とでも言いたげな表情だ。彼女はあきれた様子で、俺を小馬鹿にするような視線を向ける。


 そばひかえている彼女のお気に入り――取り巻きの男性たち――も失笑した。

 俺がない間に、また彼女へ余計な事を吹き込んだのだろう。


 街での人脈作りや他の貴族たちとの交流もせず、内輪うちわつぶし合いを仕掛けてくるとは、困った連中である。


 状況がまったく見えていないようだ。


(どうやら、姫様は完全に利用されているらしい……)


 取り巻きたちに耳触みみざわりの良い事ばかり吹き込まれ、勘違いをしているようだ。

 まあ、どの道、小国であるゴルゴーン王国は近い内に大国へと取り込まれるだろう。


 俺にも優先すべき目的がある。

 そのため、彼女に忠義ちゅうぎくす理由もなかった。


 王女の側から「あなたはクビよ」と言ってくれないだろうか?

 そんな事を考えていたからかもしれない。


「あなたを追放します」


 と一言。ストレスばかりまる職場だったので、正直しょうじき、笑顔になる所だった。

 彼女は退屈そうに頬杖ほおづえくと「優しいだけで、つまらないのよね」と付け足す。


 別に俺は彼女と付き合っているワケではない。

 年齢的にそういう厨二病的な演技をしたいのだろう。


 追放までは「お約束だ」と思っていたのだが、流石さすがに理由がそれでは俺も動揺どうようしそうになる。


 一応、国王から『聖人』という称号をいただいているのだが――その娘である王女が――そんな態度をとっていいのだろうか?


 俺でなければ激高げっこうしていそうな場面シーンだ。

 こちらは最初からめるつもりであり、大人なので腹を立てる要素はないが――


(反論や感情を出さないのも、あやしまれるか……)


 彼女はこちらが狼狽ろうばいする姿を楽しみたいのだろう。

 自分は愛されていて、好かれている、そんな妄想に取りかれているらしい。


 俺は一旦いったん、落ち着くために大きく息を吸った後、静かにく。


「念のため、お聞きしますが、今すぐでしょうか?」


 俺の問いに、メドゥサは「そうよ」と一言。

 クビは構わないのだが、仕事という面では「はい、そうですか」と引き下がるワケにはいかない。


 そもそも、俺のやとぬしは国王である彼女の父親なのだが――


(まあ、いいか……)


 姫様を言いくるめるのは簡単だが、後腐あとくされなくめるにはいい機会だ。

 都合がいいので、この状況を利用することにした。


 だが、その前にいくつか確認しておこう。


治癒ちゆ魔法は……」「回復役ポーションがあるからいいじゃない♪」


 俺が質問をする前に、メドゥサは即答する。

 解毒や解呪も俺の仕事なのだが「不要」ということでいいのだろうか?


 この『魔王大陸インサニタス』で回復役ポーションや薬草は貴重だ。

 数をそろえるとなると、お金も掛かるのだが――


(それなりの伝手つても必要になる……)


防護ぼうご魔法は……」「皆が私を守ってくれるわ♡」


 俺の質問の途中で、再び即答するメドゥサ。

 ムフンッ!――とドヤ顔である。


 その皆は誰が守るのだろうか?


(野営の際の結界バリア瘴気しょうきの浄化も俺がしていたのだが……)

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