第七話 日曜日の悪魔様

 咲良とは途中で別れ、俺はコミック学科のクラスルームにやってきた。

 最新の教室だけあって凄い。すべての机がゲーミングデスクで、すべての椅子がゲーミングチェアだ。さらに一つの席に一つずつノーパソがありまっせ。良かった。ちゃんと高い学費は設備に還元されているようだ。

 席の上には名札が置いてある。俺は自分の名が書かれた椅子に座る。


(しかし、色々な人間がいるな……)


 話さなくてもわかる。個性的なクラスだ。

 俺より十個は年上っぽい男性、バニースーツを着た女子、明らかに不良っぽい金髪の男、ギャル、迷彩服を着た男女等々。

 普通の恰好で来た俺が浮く始末だ。おいおい勘弁してくれ、漫画家志望が全員変人だと思われるだろうが。


「おはよう諸君」

「げっ」


 教室に入ってきたのは……見覚えのある女だった。

 スラっと長い脚を黒タイツで艶やかに演出し、スーツと短めのタイトスカートで気合の入れた黒髪ロングの独身女。そう、俺の叔母である。


「コミック学科Aクラスを担当する平良比心祝だ。やれやれ、色物が揃ったな今年は」


 叔母さんは元漫画家だ。コミック学科の担当になるのは不思議じゃない……けど、担任になるなら事前に言っとけよ……。


「さて、今日は特別プログラムだ。顔合わせや学校の説明などで一限から三限を使わせてもらう。そうそう、ありきたりな自己紹介はしないよ。漫画家志望らしく、絵で語ろう。みんな、ちゃんとメールで送った通り作画道具は持ってきてるな?」


 学校からメールで作画道具一式を持って来いと言われていたので、PCと液タブを持ってきている。しかし、一体なにをさせる気だ?

 ミノリ先生はホワイトボードに『制限時間90分』と書いた。


「一限が終わるまでに漫画を描いてくれ。ネームでもいいし、仕上げてもいい。1ページでもいいし、100ページでもいい。二限でそれをこのクラスの共有フォルダにアップしてもらう。漫画を見て、気になるやつがいたら声を掛けろ。これがこのクラスの自己紹介だ」


 いきなり無茶苦茶なこと言いやがる。

 でもまぁ、一人一人前に立って自己紹介するよか、気は楽かな。

 90分……仕上げまでやるなら、4ページってところかな。さっきBL誌サークルで慣らしておいてよかった。手が動く。


 俺は4ページのストーリー漫画を描き、共有フォルダにアップした。



 ---



 授業がすべて終わり、帰り支度をしていると、


「お前」

「ん?」


 恐らく30歳ほどの男に声を掛けられた。ちょっと太めで、目つきが悪い。


「背景クソ上手いな」

「あ、どうもっす」

「どこで習ったんだ? あそこまでの技術を身に着けるのは才能だけじゃ無理だろ」

「え~っと」

「すまん。名乗るのが遅れた。八森やもりはじめだ」


 八森……たしか萌え全開の漫画描いてたやつだな。四コマ漫画で3ページ描いてた。しかもオールカラー。背景は簡素で、キャラの作画に力を入れていた感じだ。キャラもストーリーもあの短時間で考えたとは思えないほど魅力的だった。全員の作品を見たが、面白さで言えばトップ3に入る。


「一流の漫画家のアシスタントを半年ほどやっていたんです。そのおかげですね」

「そうか。やはり、アシスタントは良い練習になるんだな。良かったら今度、アシスタント時代の話を聞かせてくれ」


 アシスタント時代はあまり思い出したくないんだけどな。


「じゃあな。また」

「ちょ、待ってください八森さん。まだ俺が感想を言ってないですよ」


 八森さんは神妙な面持ちで俺の言葉を待つ。


「面白かったです。サキュバスのアマちゃん、萌えでした」


 八森さんは嬉しそうに笑う。


「ふっ。今日はケーキを買って帰ろうかな」


 八森さんは俺に背を向け、手を振りながら帰っていった。なんだあの人、カッコいいな。


「それにしても……」


 また、背景を褒められたな……いや。 


「……背景、褒められたな」



 ---



 授業が終わった後、おとなしくどこも寄らずに寮に帰った。部屋に入った後は日課の作画練習二時間をやる。

 夕食にカップラーメンを採用し、一人暮らしのカップ麺の味が格別であることを知り、夜にやることもないのでスマホで漫画を読む。

 ダラダラとしていると、何やら隣から騒音が聞こえ始めた。


『■ね! エイ■チー■使ってん■■!!』


 女性の声だ。それになんか銃撃音も聞こえる。FPSでもやってんのか? うるせぇな。

 そういや隣……203号室って誰だっけ? 201号室は咲良だろ。で、一階の101号室にミノリ先生、あと彩海が二階の一番奥の部屋に入っていくのは見た。となると、その三人を除く誰か。佐藤と芥屋はゲームとかやるタイプには見えないしな、となると飛花辺りが妥当だな。アイツ騒がしそうだし。


『だーっ! くっそ足引っ張りやがってぇ! あたしの10キルが台無しじゃねぇか!!!』


 声が大きくなり、鮮明に聞こえだした。

 俺が知るどの声とも違う気がする……女子にしてはちょっと低めの声だ。口も悪い。

 ドン! ドン! と、壁を叩く音が聞こえる。


「……仏の顔も三度まで。次叩いたら……」


 ドン!!

 ハイ、仏はキレました。


「うっせぇ!!」


 俺は壁を蹴る。ドォン!! と音が鳴る。


『うおっ!? なに!? なに!!? 隣誰もいないのになんで音がすんだぁ!? 幽霊かぁ!!?』


 なんだこの壁の向こうのやつ。俺が引っ越してきたこと知らないのか?

 ともあれ、幽霊だと思ってくれれば、もう壁を叩くことはない――


『幽霊如きが……!!』

「え?」


 嘘だろ。この足音……まさか助走とってますぅ!?


『調子乗ってんじゃねぇ!!』


 ドゴォン!!! とハンマーでコンクリートをぶっ壊したような音と共に、俺の部屋の壁が綺麗な足に蹴り破られた。


「嘘、だろ?」

「嘘、でしょ?」


 床から30cm地点に、穴が空いた。丸い穴が、壁に空いた。

 マンホールぐらいの穴が、壁に空いた。穴からは白い脚が飛び出ている。

 脚が引っ込んだと思ったら、穴から黒髪の女が顔を出してきた。


「あ、新しく引っ越してきた方ですか? わたくし、黒崎くろさき日彩ひいろと申します。仲良くしてくださいネ☆」

「できるわけねぇだろバアアアァァカ!!!!!」




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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