好きなゲームで仲間集めはダメですか?

第1話「日常変化」

「ふあぁぁ・・・」


目を覚まし、時計に目をやると丁度7時になっていた。気怠い体を起こし、ゆっくりと立ち上がり背伸びをする。その足で階段を降りていくといつものように朝食を並べている母親と珍しく新聞紙を広げて朝食を待つ父親と眠そうにしている姉の姿があった。


「おはよう、父さん今日は珍しいね」


「あぁ、今日はリモートワークだからな」


「そんなにやることないの?」


「やることはあるさ、ただ会社に行くほどの物でないだけさ」


「はいはい、2人とも朝食が出来たわよ」


父さんと俺の会話を遮り、母さんが自分の席へと座る。それに合わせて自分もいつもの席に座り、手を合わせる。


「いただきます」


4人が口を揃えてそう言うと静かにご飯を口に運んだ。食事が終わり、歯を磨き、自室に戻って学生服へと着替え、カバンを持って玄関へと向かう。


「行ってらっしゃい」


「気をつけてな」


「いってら〜」


「うん、行ってきます」


両親と姉に挨拶を済ませ、玄関を開け、学校へと向かう。そして、学校が終わって帰宅し、晩御飯を食べて、風呂に入り、歯を磨き、自室に戻り、寝巻きに着替え、少しだけゲームをして眠りにつく。・・・これがいつもの、何も変わらない俺の日常、だった。それがまさかあんな奴に目をつけられて変わっていくだなんて思っても見なかった。いつも通り学校での授業を終え、帰る準備をしていた時だった。


「ねぇ!君SPLASH好きでしょ!?」


「・・・誰?」


「えぇ〜誰って酷くなぁい?同じクラスメイトじゃぁん」


・・・確かにこんな奴がいた気がする。でも女にはあまり関わり合いになりたくない・・・適当に話を済ませてしまおう。


「で、なんの用?」


「なんの用?ってさっき言ったじゃん!君、SPLASH好きなんでしょ?ほら、休み時間SPLASHの小説読んでたし」


「あ〜・・・まぁ、うん。好きだけど・・・」


「よし!私の勘に狂いはなかった!じゃ行こ!!」


「え!?ちょっ!待っ!!!」


俺は抵抗する間もなくこの女に手を引かれ何処かの部室の前へと連れてこられた。女は部室のドアを勢いよく開けると中にいた女子達に元気よく挨拶した。


「やっほ〜!みんな!新しい部員連れてきたよ〜!!」


全員が俺の方に視線を向ける。


「誰?こいつ」


緑色の髪の女が当たり前の疑問を口にした。それに対して俺の腕をいつまでも握りしめているこの女は俺の腕を上げながらこれまた元気よく答えた。


「この子は、私のクラスメイト!SPLASHの小説を読んでたのでピンッ!と来て連れてきちゃいました!」


「また美穂の勘かよ」


「あ〜!私の勘馬鹿にしたでしょ!?今まで外れたことないでしょ!?」


「それはそうだけどさ・・・」


「私は別にどうでもいい」


長髪で黒髪のちっこい女が1番奥の席でゲームをしながらそう呟いた。俺はその女がやっているゲームを見てつい呟いてしまった。


「・・・SPLASH CHRONICLE」


その時、黒髪の女の動きがピタッと止まり、こちらを振り向いた。


「・・・知ってるの?」


「あ、あぁ、家でやってるゲームだから」


「・・・こっち来て」


「え?」


「こっちに来て」


俺はいつの間にか離されていた腕を擦りながら黒髪の女の近くまで来た。すると、近くの席を指差した。


「座って」


座るよう促され、俺は言う通り座ると黒髪の女は手馴れた手つきで俺の席のゲーム機とディスプレイを起動した。


「アケコン使える?」


「あぁ、いつも家ではアケコンでやってる」


「なら対戦しよ」


「・・・別にいいけど」


「梨沙っちとバトるの!?梨沙っち強いよぉ〜?何せゲーム内全国1位だからね!」


「全国1位・・・」


まぁ、適当にボコられてさっさと帰るか・・・俺がさっさと機体を選ぶと美穂と呼ばれてたクラスメイトが大きな声を出した。


「ゼウス!?使いこなせれば強いけど癖が強くて誰も使ってないあの!?」


「使えるの?」


「まぁ、そこそこには」


「あんま使ってる人見ないし、楽しませてね」


黒髪の女はデッドマンという機体を選択し、バトルが始まった。そして・・・


「え・・・嘘・・・梨沙っちが・・・負けた?梨沙っち、手抜いてた?」


「私が手を抜くわけないでしょ・・・なんでこんなに上手いのよ」


「別に俺が上手いわけじゃ・・・」


「もう1回」


「え?」


「もう1回ッ!」


「あ、はい」


今度はゴーズという機体を選択して来た。そしてやはり美穂が反応した。


「梨沙っちの持ち機体キター!!!本気出してきたぁぁぁ!!!!」


「(こいつうるさいな・・・)」


そして、画面にバトルスタートと表示された。それと同時に美穂が実況を始めた。


「まず先に勝負を仕掛けたのは梨沙っち!機体の性能を活かした素早い動きで相手を翻弄する〜!おぉっとしかし和真君これを冷静に対処!なんてトリッキーな動きなんだぁぁ!更にそこからコンボを繋げて漆黒の白雪姫と呼ばれたゴーズを落としていくぅぅ!!もう後がない梨沙っち!さぁどうする!っと、次に勝負を仕掛けたのは和真君!ビームのラインで相手の逃げ道を塞ぎ・・・おっとぉ!?この特徴的な高笑いはぁぁぁ!!!???」


『ひぃぃぃはははははは!!!!これが"神"の裁きだぁぁぁぁ!!!』


「必殺技だぁぁぁぁ!!!!」


ゼウスが相手を蹴り飛ばし、ビームの雨を降り注がせトドメの一撃に極太のビームを発射した。


『沈め』


俺の画面にはWINという文字が表示された。隣の梨沙という女は机に突っ伏していた。


「梨沙っちが持ち機体で負けた・・・嘘でしょ?全国1位だよ?和真君、強すぎじゃない!?」


「いや、俺じゃなくて機体が強いだけだって・・・」


「・・・かい」


梨沙が鼻をすすりながら何かを言っている。


「・・・え?」


「もっがい!!!!」


・・・そして、俺は50戦する羽目になった。


「・・・勝った、勝ったぁぁ・・・」


「おめでとう梨沙っち!」


「はぁぁぁ・・・疲れた・・・」


「50戦中1勝しか出来ないなんて・・・」


「上には上がいるんだねぇ梨沙っち〜」


「やっぱり美穂の勘は正しかったわけだ、なら歓迎せざるをえないね」


「だから言ったでしょ?沙苗ちゃん!私の勘に狂いはないのだ〜」


「いや、俺はまだ入るなんて言ったわけじゃ・・・ってもうこんな時間!?早く帰らないと!!!」


「あ!ちょっと和真君!!・・・行っちゃった・・・」


「まぁ、また明日だな」


「うん!明日はぜっっったいに勧誘成功させるから!」


美穂は燃えていた。その頃和真は・・・


「はぁ、はぁ、ごめん!遅くなった!」


「珍しいじゃん、帰りが遅いなんて。まぁ、ウチに門限なんかないから何時でもいいと思うけど〜」


「紗友里、そんなわけないでしょ?流石に学生が0時に帰宅とかしたらぶっ飛ばすからね?」


「そんな遅くには帰らないよ母さん・・・」


いつもは3時には帰ってきていたが、今日は絡まれたせいで4時に帰る羽目になった。今日は本当に疲れた・・・もしかしたら明日もこうなるかも知れないと考えるとゾッとする。和真は震えていた。

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