#29 救済

 目の前にいるのは「C」ファイニスト

 ご主人様…いや、あの男に命令されてこいつを殺しに来た。


 でも、そんなやつに何故か過去のことを話してしまった。

 この後どうせ殺すなら……と心の拠り所を探していたのかもしれない。


 でも、俺は少し不安でもあった。

 自分でも声が震えていたのはわかる。



 こいつも、俺のことを理解してくれないんじゃないか。



 全て語ったあとに、もしあの男と同じような言葉をかけられたら?

 そんな事どうでもいいと言わんばかりに、反撃を仕掛けてきたら?

 ましてや、戦闘民族に生まれたことに羨望の念を抱いてきたら?


 そんなことが頭によぎりながらも口は開き、自分の感情をぶちまける。


 ……心の何処かで、諦めていた自分がいたのかもしれない。


 あの男に歯向かう唯一の障害である、この忌々しい呪いを解除する。

 そのためにはこの「C」を殺さなくてはいけない。


 ならこいつに同情してもらっても意味がないんじゃないかと。


 俺は、すべてを語り終えたあとどんな蔑みの目を向けられるのだろう。

 そう思っていた。





「あのさ、俺の仲間にならないか?」




 ……………は?


 こいつは何を言っているんだ?

 頭が湧いてるのか?


 俺はお前を殺しに来たんだぞ?




「……関係ないだろ。

 お前は昔の俺と同じ『生きることへの意味』が持てない人間だ。

 そして、俺はこれでも〘勇者〙なんだ。

 消し去りたいような過去を打ち明けてくれたようなやつを、見て見ぬふりできるほど腐ってねぇよ。」




 ……こいつの過去は知らない。


 でも、何故かこいつの言葉にはどこか説得力があった。

 まるで、俺のすべてを認めてくれるような包容感すらも感じられた。


 だとしても、お前になんのメリットがある?




「お前たち、強いんだろ?

 何だったっけ……「Ⅹ」ティーンだったか。

 俺も詳しくはよくわからないんだけどさ、その能力はまず認められるべきだ。」




 ……何かが俺の中で剥がれ落ちた。


 こんなやつに認められた。

 何も知らないやつに、さっきまで殺そうとしてたやつに。


 でも何故か満足している自分がいる。

 この感覚……久しぶりだ。


 でも、お前の強さは俺も知らない。

「C」って呼ばれるくらいなんだから、さぞかし強いんだろ?




「……それがな、俺も今呪いにかかってるんだ。

 しかも、もともとそこまで強いわけじゃない……と思う。

 それに、強いやつが多いほうが安心だろ?」




 ……そういえば、こいつ臨戦態勢を取るだけで、俺たちに攻撃は一回もしてない。

 いくらでも攻撃するチャンスはあったはずだ。


 それなのに、こいつは……




「俺は、お前が何者だろうと、その能力は褒められるべきだと思ってる。

 さっきまでの連携攻撃も実は結構危なかったんだ。

 そして何よりも、俺はお前に寄り添いたいと思っている。」




 そんな言葉をかけるな……頼むから。

 今まで否定され続けてきたんだ。

 戦闘民族、血筋、儀式。

 もううんざりだ。


 親が殺されてさらわれたって聞いたときも、親のことを覚えてないのもあって、そんなことなんて考えられなかった。

 ただ、自分の才能が虚無だったことに打ちのめされた。

 俺は、常に余裕がなかったんだ。


 だから…そんな絶望しか知らないやつに……そんな言葉を…かけないでくれよ………。


 視界がゆがむ。


 ……俺はお前を…信じても……良い…のか?


「C」は無言で頷く。




 なら、もうこの張り詰めた空間から逃げ出したい。


 そうだ、この空間は絶望なんてものじゃない。


 ただ俺に余裕がなかっただけだったんだ……。


 ずっと自分のことにしか目を向けられなかった。




 でも……もう解放されたいんだ。




 …俺を……助けてくれ。




「まかせろ。」




 どこか透き通ったような声が返ってきた。

 救済の一手だった。


 この男が本当に俺に寄り添ってくれるかどうかはまだわからない。





 でも、今だけはこの人にすがっていたかった。

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