次の信号

何処かの川

男が二人、椅子に座ってのんびり釣りをしている

今日はまだ一匹も釣れてないけど特に気にしていない様子


「透明人間て見たことあります?」

「透明人間ですか?、いや、ないですね」

「私昨日見たんですよ」

「えー」

「自販機でジュース買って飲んでたんですね」

「はい」

「そしたらごとんて急に飲み物が落ちて来て」

「おお」

「で、ぱって見たら」

「お」


突然男が勢いよく釣竿を引き上げた

話していた男もつられて視線を隣の男の浮きへ移す


「きました?」

「いや、逃げられましたね」


糸を巻き上げていく男

水中から姿を現した針がふわふわ揺れながら男の元へと帰っていく

餌を付け、再び川へ投げ込む

ちゃぽん


「あ、すみません、それで?」

「あー、そう、で、ぱっと見たら缶コーヒーが独りで勝手に出て来て」

「えー」

「で、ぷしゅって空いて」

「いるんですね」

「私も初めて見ました」


「え、因みにそのコーヒーは見えてるんですか?」

「お」


今度は話していた男が勢いよく釣竿を引き上げた


「お」


釣竿が大きくしなる


「おっ」


男はリールを巻きながら姿勢を整え直す

引き寄せられていく糸の先は水中をうろうろ動き回っている

予断を許さない


「おお」


水面からそれが姿を現す

結構なサイズ

男は最後まで慎重にリールを操り、そしてとうとう釣り上げた


「この川にこんなやついたんですね」

「自分も初めて見ました」

「食べられるんですかね」

「あー、どうなんですかね」


針を外してバケツの中へ放す男

暫く二人で眺めると、男はそれを川へと返した


「なんか雨降って来そうですね」

「ですね」

「天気予報言ってなかったですよね」

「言ってなかったです」


「帰りますか」

「帰りますか」


片付け始める二人の男

何処かへ向かう消防車の鐘の音が遠くで小さく鳴っている



終わり











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